2014年4月8日火曜日

森敦著「月山・鳥海山」を読んで

月山は、昭和49年、第70回芥川賞受賞作。まるで、白昼夢を見て
いるような不思議な小説です。

ただし、その雰囲気を醸し出すのに、霊場月山の麓の雪に
閉ざされた集落という場所は、決定的な役割を果たしています。

次に、この人界と神の領域の中間に位置するような場所においても、
細々とではあれ、人間の生活が営まれていることが示されます。
そこをふらっと訪れ、荒れ寺に身を置いた主人公は、いやが上にも、
その地の人びとと交わることになります。

庫裏の階上、寒さしのぎの古い祈禱書の和紙を再利用した
蚊帳の中に寝むる主人公は、まるでこの地の歴史、風土に丸ごと
包まれながら、その非日常の空間の生活を静かに観察している
ようです。

取り留めもなく綴ってきましたが、読み終わってこの小説はやはり、
人間とはいかなるものかを、映し出していると思います。

月山の霊的な帳の下、即身成仏の因習も残る、厳しい気候風土の
中で、自然に寄り添うように生きる人び。、しかし時として、下界から
持ち込まれた欲望や狂騒によって、身を持ち崩すものが現れ、その
後遺症を引きずりながらも、何事もなかったように続く日常。

人間という存在の業を、静かに語りかけているように感じられるのです。

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