2026年9月30日水曜日

小川国夫著「ヴァン・ゴッホ」を読んで

小川国夫による、ゴッホを巡る長編紀行エッセーを中心として、他にゴッホ素描と題して、この画家に まつわるエッセーをまとめた書です。約40年前の刊行ですが、少しも色あせていないと感じました。 ゴッホは短い活動期間の中で輝かしい画業を残しましたが、同時に夥しい手紙を書いて、自らの想いを 吐露しています。小川は彼の足跡を自ら辿り、絵と手紙と土地の記憶から、彼の波乱に満ちた生涯を、 時系列に沿って浮かび上がらせています。 まず私が感銘を受けたのは、ゴッホが当初画商を目指したところです。この頃の彼は、業務に励むごく ありふれた青年で、商売の心得などを弟テオに書き送っています。ところが、ロンドン勤務になって 下宿先の娘に失恋します。そこから、彼の運命の歯車は狂い始めます。牧師を志しながらも挫折して 絵画の道を目指します。そして周知の悲劇的な最後。恐らく失恋は、彼の持って生まれた情熱的な資質 を呼び覚まさせる、引き金となったに違いありません。その後の彼は、正にその情熱の奔流に突き動か されるように行動し、命尽きます。この天才の資質の発現の部分に、心を動かされました。 次に、画家を目指して修行中のゴッホが、子持ちの売春婦に思いを寄せ、結婚を夢見る場面です。彼は 彼女を更生させようとしますが、肝心の経済力はなく、彼女を含めた彼女の家族からは疎まれ、自らの 家族には大反対され、とりわけ彼の最大の理解者で、経済援助を受けるテオからも批判の目を向けられ ます。この当時彼が描いた、貧しい人々を主題とした悲惨ではあるが、感動的な絵画が彷彿とさせられ ます。 そして最後に、ゴッホとテオの切ることの出来ない深い絆に心打たれました。弟は終生彼の援助者で あり、彼の絵画の価値を信じ、画業の進展を見守る理解者でした。彼の膨大な手紙の大半は、弟に宛て たものです。ゴッホの死後、テオも後を追うように亡くなり、二人の墓は並んで建てられています。 本書に記述はありませんが、つい先年も、兄弟の死後、弟の嫁ヨーが、ゴッホの絵画の評価を高める ことに大きく貢献したことを示す、展覧会が企画されました。 本書も、彼の偉大な作品が、彼の力のみならず、家族の力によっても生み出されたことを、如実に表わ していると思われます。

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