2020年3月9日月曜日

京都高島屋7階グランドホール「竹久夢二展」を観て

新型コロナウイルスの流行によって、美術展覧会の中止が相次ぐ中で、まだかろ
うじて開催されている、上記の展覧会を観て来ました。

夢二の絵画は口当たりがよく、大衆的人気があるだけに、かつての美術界では
ともすれば、毀誉褒貶にさらされることもあったようですが、今日のアートの境界
が薄れた時代には、後世にも十分に通用する独自の美人画様式を生み出した、
卓越した芸術家であると感じさせられます。

夢二というとまず、細い身体にS字ラインを有し、目、手足が大きく描かれた、情趣
たっぷりのはかなげな女性を思い浮かべますが、本展を観ると一口に美人画と
いっても、複合的な魅力の要素を含んでいることに気づかされました。

まず一つは彼の女性への憧憬の現れで、母への思慕に始まり、最初の妻、愛し
ながらも年若くで死別することになった女性、絵のモデルから恋愛関係になった
女性と、彼は女性遍歴を重ねる中で、永遠のあこがれとしての女性像を創り出し
たと思われます。

次に彼の有する幼いもの、か弱いものへの共感の情です。彼はいたいけな子供
や女性を含む社会的立場の弱い存在に温かい目を向け、その感情が彼の描く
絵に独特の情感を与えていると感じられます。

更には彼の絵画の、詩や物語を想起させるような文学的要素、私は今回後ろ姿
の女性の表現にそれを強く感じて、惹きつけられました。またそれとも関連して、
彼の歌舞伎や人形浄瑠璃といった日本の古典への素養と、江戸時代の浮世絵
や西洋画、中国文人画への幅広い興味が、彼の絵に奥行きを与えていると感じ
ました。

最後に本展には、彼が滞米中に描いた2枚の油彩画が展示されていることからも
分かるように、彼は常に新しい表現を求め、また自らの作品が広く世間に親しまれ
ることを志向して、本の装丁、日用品のデザインなども行うというふうに、時代を
先取りした総合的な創作活動を行ったことを知り、私は夢二に対して一元的な見方
しか出来ていなかったことに、改めて気づかされました。

当初予想していた以上に、深みのある展覧会でした。

0 件のコメント:

コメントを投稿