2020年2月21日金曜日

原武史著「平成の終焉ー退位と天皇・皇后」岩波新書を読んで

天皇の生前退位が実現して、元号が平成から令和に代わりましたが、その時点で
振り返ると、同じ象徴天皇制と言っても、その前の昭和と平成で天皇のイメージが
大きく変化したにも関わらず、具体的にどの部分が変わったのかは、理解していな
かったことに気づきました。

本書は、2016年夏の平成天皇の退位の意向表明の「おことば」を起点として、昭和
から平成にかけて天皇制はいかに変化したか、を読み解く書です。

私自身のそれぞれの天皇に抱く印象から記すると、昭和天皇は象徴天皇になって
後も、戦前の君主としての天皇の影を色濃く引きずり、戦争で辛酸をなめた世代
には彼に対する複雑な感情があり、新左翼の学生、知識人は彼の糾弾を主張して
一定の支持を集めていました。天皇自身の立ち居振る舞いも、親しみやすさを指向
しながらなお、近寄りがたい雰囲気をまとっていたように感じられました。

それに対して平成天皇は、天皇、皇后夫妻がいつも行動を共にする仲睦ましさ、
子育てなど家庭生活も公開を辞さないざっくばらんさがあり、また被災地を訪問した
おりに、膝をかがめて被災者と同じ目線で相手を励ます謙虚さ、他者の心の痛み
に寄り添おうとする親和感がありました。

そのような前提の上で「おことば」に立ち返ると、平成天皇は、国民の象徴としての
天皇の存在の意味は、常に国民に寄り添い、その安寧と幸せを祈ることである、と
述べています。つまり自身の役目は、国民のために祈る宮中祭祀と全国津々浦々
を訪れて国民に直接触れることであり、高齢のためにその務めを果たすことに支障
を来たすゆえに交代したい、というものでした。

昭和天皇も宮中祭祀に熱心であったと聞きますが、その点は平成天皇も継承して
いるのでしょう。しかし本書を読むと、行幸啓(天皇、皇后、皇太子、皇太子妃の
外出)の性格は、昭和、平成両天皇で大きく違うことが分かります。

すなわち平成天皇、皇后は、被災地や老人ホーム、ハンセン病療養施設、水俣病
患者などの社会的弱者を積極的に慰問し、沖縄、長崎、広島、海外にも及ぶ
戦災地に、慰霊の旅を続けたのです。この象徴としての務めを自覚した献身的な
行動が、今日の平成天皇、皇后の多くの支持を集めるイメージを作ったのでしょう。

しかし同時に、この天皇の「おことば」は、実際の退位の経緯を見ると、天皇は国政
に関する権能を有しないという憲法の規定に、抵触する恐れがあります。そこにこそ
象徴天皇制の矛盾があると感じられます。

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