2018年12月12日水曜日

細見美術館「描かれた「わらい」と「こわい」展ー春画・妖怪画の世界ー」を観て

国際日本文化研究センター所蔵の妖怪・春画コレクションにより、〈恐怖と笑いが
地続きで繋がる前近代の豊かな日常〉を鑑賞者に提示しようとする展覧会です。

私は実際に観るまで、当時の日本人にとって「わらい」と「こわい」が、現代の我々
よりずっと親近性のあるものであったことを、春画、妖怪画を通して明らかにする
というこの展覧会の意図が、ほとんど雲をつかむようで実感出来ませんでしたが、
現実に目にして、前近代の人々の精神世界を少し覗き見ることが出来たような、
快感とも懐かしさとも通じる感情を味わうことが出来ました。

恐怖と笑いが地続きであるということは、私たち現代人にとっては、それぞれの
感情を引き起こす要因を理知的に捉えようとする習慣の浸透によって、その差異
が際立たされた結果、とても想像することが出来ないように思われますが、当時
の人々の生の実感では、この二つの感情は親しいものであったのでしょう。その
点については、人間は本来自分の理解を超えたものに対して恐怖や笑いといった
感情や反応を示すという本展での解説によって、納得できる気がしました。

さて実際に展示作品を観て、妖怪画や春画にユーモラスな表現が散見されること、
あるいは妖怪画と春画が混ざり合った作品も見られることなどから、恐怖や笑いや
信仰心、性的感情といったものが当時の人々にとって、日常の精神生活の中で
渾然一体としたものであったことが推察されます。その事実は彼ら彼女らが、合理
的なものの考え方という点では現代人に劣っているとしても、かえってより豊饒な
精神世界を有していたとも言えるのではないかと、感じました。

個別の作品では、鳥居清長の春画「そでのまき」の美しさ、精緻さに強い感銘を
受けました。本展ではこの作品の復刻版の制作過程をも示すことによって、作品
の完成度、魅力を分かりやすく提示していますが、現代の価値観では下に見られ
がちな春画に最高の技巧が用いられていることに、当時の浮世絵師とそれを支え
た職人の心意気、研ぎ澄まされた美的感覚を感じました。

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