2018年11月18日日曜日

河瀬直美監督・樹木希林主演映画「あん」を観て

先日亡くなった女優樹木希林の追悼放映として、BS朝日で放送された2015年の
河瀬監督作品映画「あん」を録画で観ました。

女優樹木希林の老練の演技は言うに及ばず、河瀬作品を観るのも「萌の朱雀」以来
の二作目で、ちょうど河瀬監督が2020年の東京オリンピックの記録映画の監督に
決定したこともあって、観るに当たりいやがうえにも期待が膨らみます。

観終えて、予想にたがわぬ深い余韻が残りました。映像的にはいかにも河瀬作品
らしくトーンを抑えた、夢とも現ともつかぬ満開の桜の描写が美しく、長く記憶に残る
シーンだと感じました。観る者を回顧の情に誘う、独特の間の取り方も健在です。

ストーリーでは、主人公が背負うハンセン病が作品全体の底を流れる重いテーマ
ではありますが、それについて語るのは私には荷が重すぎて、とても務まりません。

しかしもう一つのテーマといえるどら焼きの粒あん作りについては、私も感じるところ
が多かったので、それについて若干語りたいと思います。

どら焼き屋の店長・千太郎(永瀬正敏)はある理由があってその店を任され、どら焼き
の皮を焼くのは得意ですが、あん作りには自身がなく、どら焼き作りにそれほど思い
入れがある訳でもないので、業務ようのあんを使用して済ませています。

ある日店員募集の告知を見てやってきた、老女・徳江(樹木希林)は一見頼りなく感じ
られますが、彼女の炊いた粒あんは絶品で、千太郎は徳江を採用することにします。

私が感銘を受けたのは、彼女がまるで慈しむようにあんの素材となる小豆を取り扱う
姿です。あんを炊くのに手間ひまを惜しまず、出来上がったどら焼きにも愛情を込める
徳江の様子に、次第に千太郎も心を動かされて、彼も自分の仕事に愛着と矜持を
持つようになります。

これらの丁寧な描写の中に、職人仕事の神髄が現わされているようで、強く印象に
残りました。

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