交差する所」と題して、南方熊楠が和歌山へ行幸した昭和天皇へのご進講で、最初に
現地で「ウガ」と呼ばれる生き物の標本について説明したことを通して、熊楠の「萃点」
という考え方について語っています。
「萃点」とは、様々なものが集まる場所のことで、自然界の不思議もそこに交差する
そうです。私は興味を感じて調べてみましたが、熊楠は、自然界の因果律は必然性と
偶然性により構成されていて、「萃点」はその二つが交わる所と考えていたようです。
ちなみに「ウガ」の正体は、セグロウミヘビの尾の先端にコスジエボシというフジツボが
付着した個体で、まるで爪が生えているかのような奇怪な姿をしたもののようです。
ウミヘビにエボシガイが付着したものは吉兆といわれたそうで、確かにウミヘビの尾に
エボシガイのような甲殻類が付着することは、珍しいことなのでしょう。
丁度カメに藻が付着して、ふさふさした尻尾を付けているように見える蓑亀が、吉兆
といわれたのと同じかもしれません。私たち日本人は、古来より自然の中に偶然現れ
たものに瑞兆を見てきたのでしょう。
自然界の因果律が必然性と偶然性より成るということも、昨今は常識となりつつある
ようですが、科学的法則や自然界の絶対的な原理がしゃにむに探求された時代を経て、
現代では科学的思考も柔軟性を帯びて、成熟してきたということなのでしょう。
そういう意味でも南方熊楠は、時代を先駆ける知の巨人であったのだと、改めて感じ
ました。
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