2015年6月15日月曜日

京都国立近代美術館「現代美術のハードコアはじつは世界の宝である展」を観て

ユニークなネーミングの本展は、台湾の大手電子部品メーカー、ヤゲオ・
コーポレーションのCEO、ピエール・チェン氏が一代で築き上げたコレクション
から、現代美術の名品を展観するものです。

ネーミングの由来は本展の案内パンフレットによると、著名な個人コレクターの
蒐集品を通して、優れた現代美術作品が市場価格的、保険評価額的に
「世界の宝」であることを認識し、その前提の上で、鑑賞者一人一人に現代社会
におけるアートの意味について考えてもらおうというものです。

とかく現代美術は一般の美術好きにとっては、難解であったり親しみ易さに
欠けるように感じられて、敬遠されがちです。さらにオークションで、歴史的に
評価の定まった名画ならいざ知らず、現代美術家の作品が驚くほどの高額で
取引されているのを目にすると、益々縁遠い世界の出来事という思いに
囚われます。

さて、本展に展示された作品は著名なコレクターの蒐集品だけあって、優れた
作品が多いと感じられました。しかし作品それぞれの解説表示にしばしば登場
する個別の評価額を目にすると、美術的価値と市場価値の間で戸惑う自分を
感じました。つまり美術作品の価格は、一定以上の美的基準が前提であると
しても、最終的には市場の需給関係によって決定されるからです。

しかし経済的価値が存在するから、このような優れたコレクションが生まれるのも
また現実です。すなわち市場が活況を呈すれば、それだけ優れた現代美術作家、
作品が生まれる可能性も増すのです。

その事実は、文化芸術活動も高度資本主義経済の大きな渦に巻き込まれざるを
得ない現代社会の真実を示しているのでしょう。

しかし優れた現代美術家は、しばしば社会の矛盾を告発する批評眼を備え、その
作品に反映させます。自由な美術表現の場の存在は、社会の健全性の証明でも
あります。現代の社会が美術との関係性においても、一筋縄ではいかないことを
改めて感じさせられました。

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