2014年11月2日日曜日

京都国立近代美術館「ホイッスラー展」を観て

19世紀中葉の画家、ホイッスラーの名前は知っていましたが、このように
作品を体系立てて観るのは初めてです。期待に胸を膨らませて、会場に
向かいました。

最初に目に付いたのは、版画作品の精巧さ、美しさです。彼は地図版画の
画工から出発したといいますが、それ故でしょう、対象を捉えるデッサン力と
確かな版画技術が融合して、端正で優美な作品に仕上がっています。
彼がその後に展開する色彩の諧調を重視した、決して大仰ではない優雅で
感覚的な絵画の素地が、これらの版画作品から十分にうかがえると感じ
ました。

人物画で興味を惹かれるのは、ラファエル前派との影響関係です。彼は
ロンドン、パリを行き来して絵画を制作したといいますが、画業の盛期の
人物に往々に見られるものうげな姿態や表情には、その影響が色濃く
現れていると感じました。事実彼は、ラファエル前派の中心的な画家の
一人ロゼッティとも、親交を持っていたといいます。同時期のフランス絵画、
イギリス絵画の影響を受けながら、独自の画境を開いた様子が
見て取れます。

次に、ホイッスラーの絵画を語る上で重要な要素であるジャポニズムに
ついて。私は東洋的な文物や衣装を描き込んだ人物画より、構図上に
影響を感じさせる風景画により、彼の美的価値観と東洋的な意匠の
見事な融合を感じます。「青と金色のノクターン:オールド・パターシー・
ブリッジ」では、広重の浮世絵の橋を描く大胆な構図にヒントを得ながら、
全体を覆う藍色の濃淡の上にほの見える印象的な黄色で町の灯と
花火の瞬きを表して、幻想的で詩的な情景を描き出すことに成功して
います。彼は日本美術の外見の特徴だけではなく、ただ無心に、形や
気分のおもしろさ描き出そうとする美意識の核心を、感受していた
のではないかと思わせられました。

ホイッスラー展は、一口に西欧近代絵画といっても様々な価値を求める
絵画があり、また19世紀は美術においてもグローバルな関係が生じ
始めた時代であることを、改めて感じさせてくれました。

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