2014年11月24日月曜日

佐々涼子著「紙つなげ!彼らが本の紙を造っている」を読んで

2011年3月11日、東日本を襲った大震災の惨禍から早や3年以上が
経過し、被災現場との距離的な隔たりもあって、この震災の現実感が
徐々に薄れ始めている私にとって、本好きという自身の嗜好からも、
本書の扱う題材の親しみやすさ、具体性は、あまたの震災本の中でも
とりわけ興味をかき立ててくれるものでした。

日本製紙石巻工場が、この国の出版用紙の生産において重要な
役割を担っているということ。これは本書によって初めて知った事実で、
この工場の被災が、震災直後、用紙不足の懸念が囁かれる主な
原因であったことも、この本を読んで納得出来ました。

さて、被災した石巻工場の従業員それぞれの体験談は、当事者にしか
語ることの出来ない具体的真実と迫真性に満ち、読む者の心にぐっと
迫って来るものがあります。

生きるか死ぬかは紙一重で、もちろん運命的なものも大きいのですが、
最も甚大な被害をもたらした津波が、地震の揺れから一定時間を置いて
襲来したこともあって、起こりうる災厄に対してより慎重で危機感を持ち、
いち早く高所へ避難した人が、死を免れたとも言えます。

また私たちの心を打つのは、生き延びた人の多くが、死んだ人々を
見殺しにしたという罪悪感を持っていることで、それほどに生死を分かつ
現場は、生き残った者と犠牲者が手の届きそうな地点にいながら、
絶望的な距離に隔てられていたという厳然たる事実です。

震災による津波で壊滅的な打撃を受けた日本製紙石巻工場は、半年での
一部稼働再開という奇跡的な復興を遂げます。到底不可能と思われた
ものを可能にする!これはひとえに、全従業員の出版用紙の供給を途絶え
させないという使命感とプライド、そして彼らの熱意を持続させた指導者の
ぶれない、明確な目標設定と、鼓舞によるところが大きいと思われます。
日本の企業もまだ捨てたものではない、そういう思いを抱かせてくれる
好書です。

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