2018年4月28日土曜日

京都国立近代美術館「岡本神草の時代展」を観て

神草の舞妓の絵は、一目見ると強烈な印象を残します。官能的でミステリアス、退廃的で
叙情的・・・。若くして死を迎えたこともあって現存する作品は少なく、半ば伝説的な存在
でもありますが、その回顧展が開かれるということで、期待を持って会場に向かいました。

会場に入ってすぐの初期の作品には、初々しさと同時に生真面目さが滲み、この絵が
どうして後年のあの舞妓に発展するのか、不思議な気分がします。彼の以降の心境の
変遷を覗いて見たいような欲求がふくらみ、益々期待が高まりました。

また「お貞子ちゃん写生」のような愛くるしい小型犬を描いた墨彩の作品もあり、彼の
人柄を彷彿とさせます。

それから私の目を引いたのは、竹久夢二の模写が数点あったことです。夢二は当時、
絶大な人気を誇る流行画家であったということはよく聞きますが、また一方、テレビの
美術番組のインタビューで、日展系の日本画の大家が「彼は日本画家ではない」と語る
のを、聞いたことがあります。

そのことからも、神草が模写を試みるほどに夢二の影響を受けた事実に、時代の空気
のようなものを感じました。

彼のよく知られた作品「口紅」は、さすがに艶やかで絢爛豪華。今回観るとなまめかしさと
同時に、きゃしゃで頼りなげな様子も感じられましたが、逆に同時に展示されている草稿
からは、舞妓の姿態の構図を描き出す力強い線が見られて、彼の絵の技量の確かな
基底を感じました。

彼の作品の中でも最も謎めくのは、「拳を打てる三人の舞妓」、第3回国画創作協会展の
ために制作されながら完成が間に合わず、中央の舞妓だけ切り取り出品されたと言い
ます。60年以上の時を隔てて残りの部分が見つかり、随分話題になりました。

本展では部分草稿、草稿断片、習作、最近発見された未完作を並べて、この作品に
取り組んだ当時の神草の息づかいを明らかにしようとしています。この一連の彼の苦闘
の跡を眺めると、この画家が自分の納得のいく作品を完成するために、とことんまで
突き詰めた執念のようなものを感じ、厳然とした気分になりました。

本展では、神草が美人画に最も特色を現した大正時代の同時期に、彼と競うように活躍
した画家たちの同様の作品も展示されていますが、全体を観終えると、この時期画家
たちが時代を覆う一種熱病のような空気に冒されて、居ても立っても居られず、このような
異様な女性を描く衝動に突き動かされたように思えて来ます。

これほどある時代の気分を活写した美術展も、希でしょう。
                                     (2017年11月12日記)

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