江戸時代の我が国を代表する画家(浮世絵師)の一人である、葛飾北斎の主に晩年の
作品に重点を置いた展覧会です。
本展の特色としては、イギリスの大英博物館との国際共同プロジェクトであること。周知
のように、明治維新後江戸期の優れた美術作品が多く海外に流出し、大英博物館も
多数の浮世絵コレクション等を有しているので、北斎の展覧会を共同で企画することに
よって、国内、海外に目を行き届かせた、充実した展観が可能になったということです。
その意味では、国際化の時代だからこそ、日本に生まれた卓越した画家の全容を見渡
せる展覧会を開催することが可能になるという、芸術の世界化、普遍化を象徴する企画
とも言えるでしょう。
さて、日本一の超高層ビルあべのハルカスの16階に位置する、あべのハルカス美術館
を訪れるのは初めての体験で、14階でエレベーターを降りて高層のそれより上階へと
続く長いエスカレーターに乗ると、天上へ昇るような気分を味わうことが出来ました。
残念ながらその日はあいにくの荒天で、眺望を楽しむことは出来ませんでしたが、この
ような高層にある美術館もまた一興であると、感じました。
本展では北斎の肉筆、錦絵共に優れた作品が多数出品されていますが、彼の代名詞
とも言える錦絵作品にしても、これほど多くをじっくりと観るのは初めてで、構図の大胆
さ、洒脱さ、線の繊細さ、優美さを、存分に堪能することが出来ました。
特に錦絵における彼の線は、版画による再現性という制約もあるためか、一本づつは
細い線を駆使しながら、全体として力強くダイナミックな表現をなし得ているところに、
大きな魅力を感じました。
その意味で彼の風景描写の中でも、やはり私が注意を惹かれたのは波の表現で、線を
用いて絶え間なく流動する波と飛沫を描き出すために、数種類の表現法が試みられて
いますが、それぞれに高い完成度を示しています。彼の波の集大成と言われる上町
祭屋台天井絵「涛図」は、単なる波の表現を超えて、宇宙的な深淵を覗き込むような
気分に、観る者を誘います。
晩年の北斎の制作活動を支えたと言われる、三女応為の作品の出品も本展の特徴で、
彼女の父に引けを取らぬ優れた絵画を観ると、90歳まで描き続けた最晩年の彼の画業
が、陰で力添えする人があってこそなったに違いないことに思い至って、かえって北斎
が身近に感じられました。
(2017年10月29日記)
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