2015年4月13日月曜日

神戸市立博物館 「チューリッヒ美術館展」を観て

久しぶりに神戸へ行って、「チューリッヒ美術館展」を観て来ました。点数は
多くはありませんが、19世紀終盤から20世紀半ばまで、ヨーロッパ近代美術の
輝かしき時代を代表する芸術家、地元スイスゆかりの作家の名品が揃い、
すっかり満足して家路に着きました。

今回特に心引かれたのは、スイスゆかりの作家の作品で、ホドラー、
ヴァロットンは、寡聞にしてこれまで名前も知りませんでしたが、その独特の
魅力に強い感銘を受けました。

これらの画家は、ヨーロッパ美術の時代の思潮の影響を受けながらも、
スイスという地域性に根差す共通の基調を、作品のベースに有しているように
私には感じられました。

つまり、大国に四方を取り囲まれ、アルプスの山懐に抱かれた、風光明媚では
あるが冬には気候風土の峻厳の地で、自ずと特有の自然観、思索的な態度が
熟成され、その気分が共通して作品を彩っているように思われるのです。

ホドラーの対称、非対称を駆使した、躍動し揺らぐような人体表現は、音楽や
リズムというような、容易には平面上に視覚化出来ないものの表現の試みで
あると同時に、不安や恐れに脅かされざるを得なかった、当時のヨーロッパを
覆う不穏な空気に翻弄される人間の心情を、思索的方法で可視化したものに
相違ありません。

一方彼は風景画においては一転、その表現に厳しさを覗かせながらも、
たおやかで詩情豊かな世界を顕現させるのです。

ヴァロットンは、ナビ派のコーナーに展示されていましたが、私がナビ派というと
すぐにイメージする絵画と趣を異にして、風景画は雄大かつ抽象的詩情を湛え、
他方一場の心理劇を思わせる人物画は、姿態の形象を描きながら、近代に
おける人間存在の本質を深く探究しているようでもあります。

長く引き伸ばされた人物像で知られたジャコメッティや、旧知で私のお気に入りの
クレーの作品も、この会場で出会うと常にも増して、随分思索的の趣を呈する
ように感じられました。作品を展示する場の力というものに、改めて気づかされた
思いがしました。

0 件のコメント:

コメントを投稿