2015年4月10日金曜日

漱石「それから」の中の、平岡の便りに返信する代助の不安について

2015年4月8日付け朝日新聞朝刊、夏目漱石「それから」106年ぶり連載
第6回に、新婚の親友、平岡の得意げな便りに、何か割り切れないものを
感じる代助について語る、次の記述があります。

「平岡からは断えず音便があった。安着の端書、向うで世帯を持った報知、
それが済むと、支店勤務の模様、自己将来の希望、色々あった。手紙の
来るたびに、代助は何時も丁寧な返事を出した。不思議な事に、代助が
返事を書くときは、何時でも一種の不安に襲われる。たまに我慢するのが
厭になって、途中で返事をやめてしまう事がある。ただ平岡の方から、
自分の過去の行為に対して、幾分か感謝の意を表して来る場合に限って、
安々と筆が動いて、比較的なだらかな返事が書けた。」

平岡が登場して、いよいよ物語の本筋が動き出しました。それにしても
随分思わせぶりな物言いです。どうして代助は、親友であるはずの
平岡の便りに返事を書く時、心がざわつくのか?そこには何かのっぴき
ならぬ秘密が隠されていることが、問わず語りに伝わって来ます。

もちろん私には、森田監督の映画の筋から推測して、その代助の不安が
どこから発するのか、おおよその見当は付くのですが、それにしても
読者の好奇心を、あたかも隔靴掻痒とでも言うように微妙にくすぐる、
巧みな表現と感じました。

このあたり漱石は、新聞小説において、読者の興味を引っ張るすべを
熟知していたのでしょう。

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