2020年10月12日月曜日

大木毅著「独ソ戦 絶滅戦争の惨禍」を読んで

第二次世界大戦というと、私たち日本人には日米間の戦い、あるいはアジアでの侵略戦争のイメージが 強く、もう一方の主戦場ヨーロッパについては、ナチスのユダヤ人に対する蛮行の衝撃はあっても、何 か対岸の火事の印象をぬぐえません。それで独ソ戦という、私にとっては新鮮な切り口の本書を手に 取りました。 読み進めると、軍事専門家である著者の、俯瞰的視点から刻々と移り行く目まぐるしい戦局の展開を 丹念に捉え、迫真の描写で戦闘を再現するさすがの筆さばきに思わず息を呑みましたが、次第にこの 史上まれな凄絶な戦争に、怒りと絶望感がこみ上げて来ました。この戦争のイメージは、サブタイトル にもあるように、正に絶滅戦争です。 ヒトラーにとっては、ナチズムを貫徹するための共産主義者撲滅を目指す「世界観戦争」であり、 ナチスを熱狂的に支持するドイツ国民と軍隊を養うための「収奪戦争」でした。他方スターリンに とっては、ナショナリズムと共産主義体制支持を合一させる「大祖国戦争」であったのです。 イデオロギーとイデオロギーのぶつかり合いの凄惨さは、筆舌に尽くしがたいものでした。軍人のみ ならず民間人の皆殺しも辞さず、略奪、破壊の限りを尽くし、戦場は焦土と化す。余りにも救いのない 戦争でした。 では、この絶望的な戦争の起因から結果までで、私たちが学びえることは何でしょう?まず、なぜ狂信 的なナチスがドイツ国民に支持され政権を獲得し、戦争を遂行するに至ったか、です。 第一次世界大戦の敗戦で多額の債務を負い、困窮したドイツ国民にとって、ゲルマン民族の優越を唱え、 ユダヤ人、他国民を犠牲にしても自民族の生活水準を優先するヒトラーの政策は、心地よかったで しょうし、それゆえ国民はこの戦争を支持し、末期に至っても、反戦の機運は生まれなかったので しょう。 他方、強権的な政治でソ連国民を支配していたスターリンは、ドイツに進行されることによって、国民 のナショナリズムとイデオロギーの融合に成功し、反攻後は、戦後の勢力圏の拡大を見越して、容赦ない ドイツ国内への侵略を行使しました。単一のイデオロギーによる国民統合の恐ろしさを、決して忘れては ならないでしょう。 著者は独ソ戦こそが、ヨーロッパにおける第二次世界大戦の趨勢を決したものであり、この大戦自体を 象徴するものであるという旨のことを語っていますが、大量の兵器が投入され、近代兵器を駆使して、 民間人も含めて、夥しい命が容赦なく奪われたという意味において、正にそうであったでしょう。 我が祖国日本も、東アジアで侵略を繰り返し、この狂気のナチスと同盟を結んだという事実において、 決して他人事ではないと、肝に銘ずるべきです。

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