2020年10月23日金曜日

鷲田清一「折々のことば」1955を読んで

2020年10月5日付け朝日新聞朝刊、鷲田清一「折々のことば」1955では 詩人時里二郎の「池内紀さんの戦後二十年」から、独文学者池内が講演の折に語った、 次のことばが取り上げられています。    これほど豊かになって、これほどしあわせに    ならなかった国はめずらしい。 重い言葉であると、感じます。 敗戦後の焼け野原から、文字通り豊かさを求めて、日本人は懸命に働き、この国に今日の 経済的繁栄をもたらしたでしょう。 私も直接に戦争を知らず、衣食住が豊かになるのと轍を同じくして、成長しました。その 過程で、勿論色々な個人的な悩みはあったけれども、相対的には恵まれた時代であったと、 今になては実感します。 でもここに来て周りを見回してみると、経済的には世界における日本の相対的地位の低落 が言われ、少子高齢化による社会的活力の衰退が懸念され、貧富の格差の拡大が囁かれ、 また核家族化や地域社会での人間関係の希薄化による個々人の孤立化が、更には高度情報 化社会となって、ますますその傾向を強め、気が付けば随分息苦しい社会に、私たちは 暮らしているのだと、感じさせられます。 私たちは世界の国々の中で十分に豊かな国となり、そこではたと気付けば、その代償と して多くの伝統や精神的な遺産を失い、そこに輪をかけて、今度は獲得した豊かさを失う ことを恐れている。そのように感じられます。 一朝一日にこの現実を覆すことは出来ないけれども、少なくとも、経済的な豊かさと効率 を至上とする価値の見直しを、進めなければならないと、思われます。

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