新型コロナウイルス感染症による、緊急事態宣言明け後初の他府県移動で、滋賀県
の佐川美術館に行って来ました。ほぼ6か月以上ぶりに眼下に、この県の象徴である
豊かな青い水をたたえた琵琶湖を望み、改めて長かった自粛の日々をかみしめました。
まず、「歌川広重展」ですが、これほどまとまった広重の作品を観るのは初めてで、特
に、彼の浮世絵版画の代名詞である、「東海道五拾三次」と「五十三次名所図会」の
全作品が並列して展示してあって、その全容を十分にうかがい知ることが出来ました。
この展示によって感じたことは、「五拾十三次」の方が「名所図会」に比べて、より各々
の描く場所に接近して、そこで生活する人々、旅をする人々を含む情景を、庶民目線
で事細かに、秀逸に描きあげていることで、その結果鑑賞者も一緒に旅をしているよう
な旅情を味わうことが出来ることです。それに比べて、「名所図会」はもっと俯瞰的な
視点で描かれていて、各々の地形的特色は表されていると感じますが、広重らしさと
いう意味でも、「五拾三次」の方が数段優れていると、感じました。
更には、五十三次の全ての場所が55枚の版画によって描きあげられているということ
で、歴史資料的にも当時の人々の生活、習慣、風俗を詳細に知ることが出来、また
両方の作品を比較しながら観ることで、その頃の東海道の宿場町の地理的な分布も、
実感を持って把握することが出来ました。
あるいは、五十三次にとどまらず、「名所江戸百景」では広重の平面を立体的に表現
する構図、技巧のすばらしさ、その他色々なジャンルでの縦横な活躍や、肉筆の高い
技能も知ることが出来て、さながら広重芸術の全容を観る思いがしました。
一方「山下清の東海道五十三次」では、このシリーズは本来彼の得意なちぎり絵で
企画されながら、途中で彼が病で倒れたためにペン画原画が残され、その後その作品
も失われたために、原画に忠実な版画作品での展示ですが、本来の彼のペン画の気
の遠くなるような作業である、丹念な点描のタッチも残され、味わい深い作品となって
います。
この各々の作品には、それを描いた時々の彼の独特の言い回しの言葉も添えられて
いて、山下の純朴で温かい人柄を彷彿とさせると共に、この旅の彼の息遣いも伝わる
ようです。また、色彩の施されない作品であることによって、日ごろは見落としがちな
彼の構図の知的で洗練された特色をうかがい知ることが出来て、彼の芸術の新たな
一面を観る思いがしました。
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