2020年7月25日土曜日

佐川美術館「歌川広重展」「山下清の東海道五十三次」を観て

新型コロナウイルス感染症による、緊急事態宣言明け後初の他府県移動で、滋賀県
の佐川美術館に行って来ました。ほぼ6か月以上ぶりに眼下に、この県の象徴である
豊かな青い水をたたえた琵琶湖を望み、改めて長かった自粛の日々をかみしめました。

まず、「歌川広重展」ですが、これほどまとまった広重の作品を観るのは初めてで、特
に、彼の浮世絵版画の代名詞である、「東海道五拾三次」と「五十三次名所図会」の
全作品が並列して展示してあって、その全容を十分にうかがい知ることが出来ました。

この展示によって感じたことは、「五拾十三次」の方が「名所図会」に比べて、より各々
の描く場所に接近して、そこで生活する人々、旅をする人々を含む情景を、庶民目線
で事細かに、秀逸に描きあげていることで、その結果鑑賞者も一緒に旅をしているよう
な旅情を味わうことが出来ることです。それに比べて、「名所図会」はもっと俯瞰的な
視点で描かれていて、各々の地形的特色は表されていると感じますが、広重らしさと
いう意味でも、「五拾三次」の方が数段優れていると、感じました。

更には、五十三次の全ての場所が55枚の版画によって描きあげられているということ
で、歴史資料的にも当時の人々の生活、習慣、風俗を詳細に知ることが出来、また
両方の作品を比較しながら観ることで、その頃の東海道の宿場町の地理的な分布も、
実感を持って把握することが出来ました。

あるいは、五十三次にとどまらず、「名所江戸百景」では広重の平面を立体的に表現
する構図、技巧のすばらしさ、その他色々なジャンルでの縦横な活躍や、肉筆の高い
技能も知ることが出来て、さながら広重芸術の全容を観る思いがしました。

一方「山下清の東海道五十三次」では、このシリーズは本来彼の得意なちぎり絵で
企画されながら、途中で彼が病で倒れたためにペン画原画が残され、その後その作品
も失われたために、原画に忠実な版画作品での展示ですが、本来の彼のペン画の気
の遠くなるような作業である、丹念な点描のタッチも残され、味わい深い作品となって
います。

この各々の作品には、それを描いた時々の彼の独特の言い回しの言葉も添えられて
いて、山下の純朴で温かい人柄を彷彿とさせると共に、この旅の彼の息遣いも伝わる
ようです。また、色彩の施されない作品であることによって、日ごろは見落としがちな
彼の構図の知的で洗練された特色をうかがい知ることが出来て、彼の芸術の新たな
一面を観る思いがしました。

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