2020年6月9日火曜日

高橋源一郎の「歩かないで、考える」を読んで

2020年5月15日付け朝日新聞朝刊、オピニオン&フォーラム面、高橋源一郎の「歩か
ないで、考える」では、作家・高橋源一郎が、今回のコロナ禍による自宅待機生活の
中で、感染症に関わる書物をまとめて読んで感じたことについて、語っています。

彼が閉じ込められた状態で本を読んで思索するのは、18歳の時に学生運動で逮捕
されて、拘置所の独房で過ごした7か月以来、そしてその体験が現在の自分を作った、
ということから語り起して、そのような状況の中で当事者が感じる、世界から取り残され
るような不安が、現在のコロナ禍で自宅待機を余儀なくされる私たち全てに通じること、
更には過去の感染症蔓延の事象が、歴史的にはその当時の社会を転換させた事実
について述べ、コロナ後の社会について、私たち自身が思索を深めることの必要性を
説きます。

その後に、彼が今回のコロナウイルス感染症について語ることは二点、一つは、私
たちが以降もこの感染症、あるいは広い意味で新たな感染症リスクと、これからも付き
合って行かなければならないということ、つまり私たちの社会は、決してコロナ前の社会
にはもう戻れないということ、それゆえウイルスとの共生を念頭に社会を構築すべきで
あり、更には、この時点でコロナ前の社会を批判的に検証すべきである、ということです。

確かに今回に限っても、新型コロナウイルスのワクチンは、まだ開発されていない段階
であり、更にこのウイルスの抗体を、多くの人が保有している訳でもないので、一時状態
が落ち着いているとは言え、このコロナウイルス感染症がいつ再度蔓延するとも限らず、
従って私たちは、当分の間このウイルスが存在することを前提に、生活モデルを作ら
なけれならないことになります。そしてその新たなモデルは、グローバル化や大都市圏
への人口の密集といった、従来の生活様式を問い直すことにもなります。

また今回のウイルス感染症は、私たちの社会が抱える、疫病リスクへの対応の脆弱さ
や高齢化問題、貧富の格差など、様々な弱点を明らかにしました。コロナ後の世界では、
これらの弱点を克服するための対策が、早急に求められることになります。

そして高橋が語る二点目は、私たちが今回の災厄が過ぎ去った後も、ここから得た教訓
を決して忘れず、来るべき次回の感染症リスクに対する対策を、恒常的に続ける努力を
しなければならない、ということです。この論考は、新型コロナウイルス感染症がもたらす
であろう社会の劇的変化について、説得力を持って語る優れた論考であると、私は感じ
ました。

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