2020年6月23日火曜日

京都市京セラ美術館「杉本博司 瑠璃の浄土」を観て

京都市京セラ美術館に、リニューアルオープン後二回目の訪問をしました。今回は
旧美術館の東側に増設された、主に現代美術などの展示を担う「東山キューブ」で
開催されている、開館記念特別展「杉本博司 瑠璃の浄土」です。

この美術館は、コロナ禍により開館が大幅に遅れて、しかも開館当初は京都府内
在住者限定の事前予約による入場受付でしたが、6月19日より以前事前予約制
とはいえ、他府県の入場者も受け付けるようになりました。しかしまだ入場者は
それほど多くはなくて、私も行く予定の日の二日前に予約をしたにもかかわらず、
当日の予約状況は、まだまだ空きがあるようでした。

「東山キューブ」は、今回初めて訪れましたが、旧館との調和に考慮しながらも
モダンな建物で、何よりも隣接する、杉本設計の透明ガラスで覆われた茶室
「聞鳥庵(モンドリアン)」を設置した池を中心とする、日本庭園のそこからの眺め
が素晴らしく、魅力的な施設となっていました。

「瑠璃の浄土」は、杉本が同館のリニューアルオープンに合わせて、同館の所在地
京都岡崎にかつていくつもの寺院があったことを踏まえて、長く私たち日本人の
宗教的な価値観の核心であった浄土思想と再生への思いを、現代の社会状況の
中で新たに希求しようとする試みです。

会場全体が一つの寺院建築のように構想されていて、各作品の展示空間は有機的
なつながりがあるように配置されていますが、その中でも私が特に強い印象を受け
た展示空間は三つです。

一つは、ニュートンのプリズム実験装置を応用して、分光された光を撮影し、作品化
したパネル「OPTICKS」を壁面に配置したキリスト教会のカテドラルのような空間。
ここでは、敬虔な雰囲気、柔らかい光に包まれた感覚を味わうことが出来ます。

次は、本展のメイン展示とも言え、会場全体の本堂にもたとえられる、杉本が
蓮華王院三十三間堂の観音像群を早朝の光の中で写真撮影して、パネル作品化
した「仏の海」の連作を、三方の壁面に並べて仏堂を再現したように配置した空間。
ここでは、荘厳さ、深遠さを感じることが出来ます。

三番目は、杉本が、かつて平安時代末期の天皇であった崇徳院が配流された、
瀬戸内海の直島に再建した、護王神社の模型と、同じく後鳥羽院が流された壱岐の
島から見た海を、写真撮影してパネル化した「日本海、壱岐」を並べた空間です。
こちらでは、何か既視感のあるような、懐かしい感覚に囚われました。

この展覧会は、鑑賞者に普遍的な意味での浄土を提示し、それぞれに再生への
希望を芽生えさせようとする企てであるように、感じられました。体全体で感じ取る
ことが求められる、かつてない美術体験でした。



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