2014年12月7日日曜日

京都文化博物館「野口久光シネマ・グラフィックスー魅惑のヨーロッパ映画ポスター展」を観て

野口久光の名前は知りませんでしたが、博物館前の掲示板の
展覧会予告のポスターに示される、彼の映画ポスターに見覚えがあり、
懐かしく感じられたので会場に足を運びました。

それらの映画ポスターを会場で改めて観ると、原画が手描きという
こともあって、温かい肌触りは無論、現代の映画ポスターと比較して
はるかに奥行き、広がりがあるように感じられます。

これは作者の感性、筆力と共に、対象とする映画に対する理解力、
そして映画そのものに寄せる愛情によるところが大きいのでしょう。
人物、背景の描き方、色彩のトーンは作品によって自ずと違い、作品名、
キャスティング等の文字デザインも、それぞれ野口が相応しいと考える
字体、色で構成されています。また作品の多くの上方の隅に、あまり
目立たないように書き加えられた短文の映画の説明書きも、簡潔な
文章で、観客を誘います。

視点を変えて、本展には彼が描いた映画スターのポートレイトも多数
展示されていますが、それぞれのスターの醸し出す雰囲気が的確に
捉えられて、魅力的な作品となっています。

このことからも明らかなように、野口の映画ポスターは総合芸術とも
言える映画のその作品全体の佇まい、その作品の中での俳優の演技
までも、丸ごと写し込んでいるゆえに、いつまでも観る者を魅了して
止まないのではないか。その証拠にトリュフォーは、野口の制作した
自身の映画「大人は判ってくれない」のポスターを、生涯愛したと
言います。彼のポスターには、元の映画の監督さえ虜にする、作品と
しての力があるのでしょう。

野口は映画ポスターの他にレコードジャケット、本の装丁などにも
優れた仕事を残しました。彼はさしずめ、戦後日本への西洋文化の
伝道者と言えるのではないでしょうか。

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