2014年6月18日水曜日

高野秀行著「謎の独立国家 ソマリランド」を読んで

第35回講談社ノンフィクション賞受賞作です。

泥沼の内戦が続くソマリア、その一部に独自に武装解除し、民主的で
平和な暮らしを享受する、奇跡の独立国家が存在するといいます。
著者高野秀行は、持ち前の冒険心、好奇心に駆り立てられて、単身
果敢にその謎に満ちた地域に潜入します・・・

まず私がこの本を読んで、知的感興をそそられたのは、遠いアフリカの
地の、政情不安の地域の人びとの生活の実情を、つぶさに知ることが
出来たことです。

高野の単身潜入行から見えてくるのは、私たちの穏やかな気候風土や、
一応は秩序立った安定的な社会環境からは想像も出来ない、ソマリアの
厳しい自然条件の中で、身の危険や飢餓、貧困などに絶えず直面し
ながらも、氏族社会の張り巡らされたネットワークを介する相互扶助に
よって、宗教的戒律を日常生活に巧みに融合させたライフスタイルに
よって、さらには、遊牧民特有の楽天性を持って、たくましく生きる
人びとの姿です。

さて、戦乱が絶えず、内部分裂状態のソマリア共和国の中に、どうして
10年以上も平和を保ち、民主的自治を確立している小国家ソマリランドが
存在しているのか、ということについては、高野は取材の結果、以下の
結論に至ります。

ソマリランドは、ソマリア内の他の地域に比べて、氏族の伝統が維持され、
その枠組みが民主的政治の基盤を形作っていること。以前から絶えず、
氏族間のいざこざがあったので、紛争の解決に慣れていること。
この地域は資源が少なく、争うべき利権が生じにくいこと。そしてさらに、
ソマリランドの住民は、自らの独立を国際社会に認めさるために、国内を
平和で民主的な状態に保つために、不断の努力をしていること。

日本とソマリランドは、歴史も環境も、規模も違います。しかし、自己主張が
強く対立が絶えないソマリランド人が、自らの長所を活用し、短所を逆手に
取って、主体的に国家を構築していく姿は、豊かさに慣れて政治に無関心に
なり、現状に押し流され勝ちな私たちに、もう一度足元を見つめなおす契機を、
与えてくれるように感じました。

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