第35回講談社ノンフィクション賞受賞作です。
泥沼の内戦が続くソマリア、その一部に独自に武装解除し、民主的で
平和な暮らしを享受する、奇跡の独立国家が存在するといいます。
著者高野秀行は、持ち前の冒険心、好奇心に駆り立てられて、単身
果敢にその謎に満ちた地域に潜入します・・・
まず私がこの本を読んで、知的感興をそそられたのは、遠いアフリカの
地の、政情不安の地域の人びとの生活の実情を、つぶさに知ることが
出来たことです。
高野の単身潜入行から見えてくるのは、私たちの穏やかな気候風土や、
一応は秩序立った安定的な社会環境からは想像も出来ない、ソマリアの
厳しい自然条件の中で、身の危険や飢餓、貧困などに絶えず直面し
ながらも、氏族社会の張り巡らされたネットワークを介する相互扶助に
よって、宗教的戒律を日常生活に巧みに融合させたライフスタイルに
よって、さらには、遊牧民特有の楽天性を持って、たくましく生きる
人びとの姿です。
さて、戦乱が絶えず、内部分裂状態のソマリア共和国の中に、どうして
10年以上も平和を保ち、民主的自治を確立している小国家ソマリランドが
存在しているのか、ということについては、高野は取材の結果、以下の
結論に至ります。
ソマリランドは、ソマリア内の他の地域に比べて、氏族の伝統が維持され、
その枠組みが民主的政治の基盤を形作っていること。以前から絶えず、
氏族間のいざこざがあったので、紛争の解決に慣れていること。
この地域は資源が少なく、争うべき利権が生じにくいこと。そしてさらに、
ソマリランドの住民は、自らの独立を国際社会に認めさるために、国内を
平和で民主的な状態に保つために、不断の努力をしていること。
日本とソマリランドは、歴史も環境も、規模も違います。しかし、自己主張が
強く対立が絶えないソマリランド人が、自らの長所を活用し、短所を逆手に
取って、主体的に国家を構築していく姿は、豊かさに慣れて政治に無関心に
なり、現状に押し流され勝ちな私たちに、もう一度足元を見つめなおす契機を、
与えてくれるように感じました。
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