2014年6月13日金曜日

京都国立近代美術館「上村松篁展」を観て

松篁芸術の魅力のエッセンスは、展示会場に入ってすぐのところに
掛けられている、2枚の鶏の絵にすでに現れているように思います。

どちらも、白黒まだらの羽根模様の数羽の鶏が、仲睦まじく戯れる
様子を描いていますが、片や市立絵画専門学校の卒業制作、
片や初期の帝展出品作です。

学校提出作品は、鶏の描写に早、並々ならぬ技量を感じさせますが、
画面に描きこまれている周辺の情景が何か説明的で、全体に
堅苦しく、散漫な印象をぬぐえません。

他方、帝展出品作は、前作に比べてそれぞれの鶏の形態がより
生き生きとして、存在感がましていますが、それは描写力の向上と
いうよりも、背景の書き込みを排した抽象的な空間に、対象を絶妙に
配置することによる効果という面が大きく、つまり、この画家の秀でた
空間把握力と構成力のなせる技と、思われるのです。

このことからも明らかなように、私は松篁芸術の一番の魅力は、
空間構成の洗練と近代性にあると思います。

松篁絵画のもう一つの特徴として、母松園譲りの気品を感じさせる絵
ということがあげられます。母は美人画、息子は花鳥画と描く対象に
違いはあっても、上品さは両者が最も大切にする価値観であったと
いいます。

私は松篁の作品に漂う得も言われぬ気品は、本人の研鑽は
無論のこと、対象に対する敬意を持った誠実で真摯な姿勢、そして
何より、自然の造形物としての花鳥を愛してやまない、画家の心情の
発露であると思います。

優れた絵を観て、作者の人間性の素晴らしさを感じるのも、日本の
伝統的な絵画鑑賞法から生まれる喜びでしょう。

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