2021年9月24日金曜日

「青地伯水 現代のことば 表現の自由とキルヒナー」を読んで

2021年9月17日付け京都新聞夕刊、「青地伯水 現代のことば」では、「表現の自由とキル ヒナー」と題して、京都府立大学教授・欧米言語文化ドイツの筆者が、第二次世界大戦前夜 ドイツ表現主義の代表的画家といわれたエルンスト・ルートヴィッヒ・キルヒナーが、ナチ スによって退廃芸術家と揶揄される過程について、語っています。 まず印象的であったのは、新印象派のスーラの作品「サーカス」(1891)と、これを参照し たキルヒナーの「サーカスの乗り手」(1912)を比較した記述で、私は実際にネットで検索 して両者の画像を比較して観ましたが、構図はほぼ同様でありながら、スーラ作品には世紀 末パリにおける市民の娯楽としてのサーカスが、楽天的なイメージで描かれ、他方キルヒナ ー作品では、ドイツにおけるナチス台頭時代の不穏な雰囲気をまとって、サーカスが何か 不吉な影を感じさせるように描かれています。 たった20年ぐらいの時間の隔たりで、時代がこのように激変し、その環境から生み出される 芸術が、おのずから変容しなければならなかった事実の証左を目の当たりにして、慄然と するものを感じました。 更にはキルヒナー自身が、自尊心が極端に強く、内面の弱さを抱えていて、他者からの批判 に我慢ならず、ついには自身が彼を擁護する架空の批評家ルイ・ドゥ・マルセルを演じて、 自分の作品への擁護論文をでっち上げるに至ったというエピソードには、この才能ある画家 の神経の過敏さを実感すると共に、それゆえなおさら、彼がナチスによって誹謗中傷のレッ テルを貼られた時に、自ら死を選ばざるを得なかったことの、切実さを感じました。 芸術における表現の自由の大切さをまざまざと感じさせる、優れたエッセイであると、感じ ました。

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