2021年9月14日火曜日

カフカ著「城」を読んで

頭木弘樹氏の著書に触発されて「変身」を再読した私は、他の著作も合わせて読んでみたく なりました。それで手に取ったのが本書です。 読み始めて、やはり不思議な感触の物語であると、感じました。主人公はもとより、登場人物 の饒舌な会話体が延々と続き、後ほど知ったことですが、長編でありながら未完ということで、 明確な結末がありません。しかし私は、読み終えて確かな手応えと満足を感じ、カフカの卓越 した才能を感受しました。 主人公で測量師であるというKは、雇われてとある伯爵領の村に到着します。しかしいざ来て みると、そのような職業の人間は必要ないと言われ、城にある行政機関と折衝しようにも、 一向に埒が明かず、それどころか、得体の知れない2人の助手を付けられ、おまけに酒場娘と 同棲する羽目に陥り、寄る辺ない村での滞在を続けます・・・。 ストーリーを追うとこんなところで、しかも、Kは自らの職業にゆるぎない誇りを持ち、自分は この村にとっても大変有用な人材で、一度登用されれば重きをなすに違いないという自信の下、 村の慣習や人間関係、人々の抱く感情に全く頓着せず、あくまで自分の意志を押し通そうと する、利己的な人物です。 そして彼の滞在する村の社会環境は、村を統治する城の官僚体制が絶大な影響力を持ち、それ でいて、複雑な官僚機構はなかなか物事を決定出来ず、それに対して村民は官僚の意向を過剰 に推し量り、排他的で保守的な行動が日常になっています。このような関係性の中では、Kが 孤立するのは必然です。 カフカの死後、この小説が発表されてからの主流の解釈によると、主人公と城の関係は、ヨー ロッパ在住のユダヤ人であるカフカと宗教の微妙な関係を投影していると言われているそう ですが、私は、日本の現代社会に通じる読みとして、この国の政治体制及び、官僚制度と国民 の関係性を想起しました。 というのは、現在の我が国では、政治主導が叫ばれる中で官僚の劣化、政権への忖度が起こり、 それでいて政治家に明確なビジョンがないために、社会の停滞を招いています。そして、この 国の現代の社会体制が一応民主主義であるために、そのような政治運営を選択したのは、我々 国民であるということです。 また、国民が体制の顔色を窺い、本来あるべき公正な政治がゆがめられることは、歴史的にも 繰り返されて来たことでもありました。このように考えるとカフカの「城」は、普遍的なテー マを提示する小説であることが分かります。

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