2020年12月11日金曜日

白井聡著「武器としての「資本論」」を読んで

私は、もう随分昔ではありますが、大学の経済学部に入り、近代経済学を専攻したので、その 分野の基礎知識は持っているはずです。でも本書は、マルクス経済学の立場から資本主義とは 何かを論じ、私にとっては、大変新鮮でした。 私が大学生の頃、まだマルクス主義を信奉するソビエト連邦を中心とする東側国家群と、資本 主義を掲げるアメリカ合衆国を中心とする西側国家群が対立する、いわゆる東西冷戦は残って いて、しかしアメリカの影響下の日本では、かつては学生、労働者を中心にマルクス主義を 支持する多くの人々がいたにも関わらず、この頃にはそれも下火となって、またその後、ソ連 の社会主義体制が崩壊したこともあって、資本主義が世界経済の主流となりました。 私たちも、高度経済成長による物質文明を謳歌して、この国では資本主義体制が自明のことと 考えられるようになり、今日に至っています。 しかし昨今は、私たちの社会も経済の成熟化を迎え、かつてのような経済成長は望むべくも なく、加えて少子高齢化、グロバリゼーションの進展に伴って国内の貧富の格差は拡大し、 資本主義は曲がり角を迎えています。 さて、その中での本書です。私の従来の認識では資本主義は、自らが経済活動に勤しめば勤し むだけ豊かになる、合理的なシステムでした。それに対してマルクス主義は、原則よく働く人 もそうでない人も同等の所得を得ることが出来るという意味で、平等ではあるが人々の勤労 意欲を高めず、また指導体制が独裁化していって、機能不全を生じて瓦解しました。 加えて資本主義体制は、マルクス主義の弱者救済という良いところを組み込んで、自身の欠点 を補強したはずでした。 しかし今日の現実では、国内は益々中小零細企業が淘汰されて、大企業を中心に経済が動く ようになり、国際経済に目を向けると、アメリカの巨大IT企業の独占的影響力がどんどん 強まっています。 そしてその経済体制内で生きる私たちは、それとは知らず金銭至上主義や、人間関係の希薄化 による疎外感、息苦しさにあえいでいます。 本書の著者は、マルクスの「資本論」に照らして、その原因は資本主義というシステムに内在 する、全てのものを商品化し、余剰価値(利潤)を追求することを至上の目的とする性質に あると、喝破しています。この論法によると、現代社会の抱える諸問題の根幹が見通せるような 気がします。 そうかといって、直ぐに解決方法が見出せるほど話は単純ではありませんが、少なくとも、 資本主義社会を自明のことと考えず、疑ってみる視点は必要でしょう。

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