2020年9月19日土曜日

村田沙耶香著「コンビニ人間」を読んで

本作が第155回芥川賞を受賞し、社会現象とも捉えられる大きな反響を呼んだ頃から、是非読みたいと 思って来ました。この件の小説を、ようやく読むことが出来ました。 コンビニという、ある意味現代社会を象徴する場所で、長年アルバイト店員として働くことに、生き甲斐 を感じて来た女性の物語です。 社会通念からすると恵まれない人、一種の負け組と受け取られますが、彼女にそんな負い目は全くありま せん。それはそのはずで、彼女には物欲、食欲、色欲、承認欲といった一般人が持つ基本的な欲望が、 全くありません。 また、他者の気持ちを推し量ることも出来ず、そのために子供の頃には、学校で異端児扱いをされました が、大人になって外形的な協調性を身につけなければ、社会からはじき出されかねないことを学んで、 一応人まねをすることによって、かろうじて普通の人間を装っています。そんな彼女にとって、マニュ アル通りに行動していればよいコンビニ店員は、天職なのです。 ここでまず私は、彼女は大多数の人間とは違う特別な人間なのかと、自問します。しかし、どこまでが 正常で、どこまでが異常か?彼女は、普通の人間とは少し生き方やものの考え方が違いますが、コンビニ 店員としては有能な存在であり、何ら周囲に迷惑を掛けている訳でもなく、真面目に暮らしているのです。 誰からも非難される筋合いではありません。 こう見て来ると、現代社会が仕事においても、人間関係においても、極めて複雑で、そこから疎外される 一定数以上の人が存在するのではないか?と思われて来ます。 このような現象は、現代の深刻な社会問題である、貧富の格差の拡大の原因を示しているかも知れません。 しかし、ここではそれ以上は語りません。 また、特別な存在である彼女が、男と同居するという形で一歩普通の人に近づいた途端、周囲の人間が 彼女に好奇心を示し、干渉するようになります。その事実は、日本の現代社会で特に強いと思われる、 同調圧力を端的に表現しているように、思われます。 この部分も、この国で生活することの息苦しさの原因を、はっきりと浮かび上がらせているように、感じ られます。 予期せぬ経緯で、男と同居する羽目になった彼女が、最後に自分の生きる場はコンビニ店にしかないと、 気付く場面。この覚醒によって彼女は、自分の人生に希望を見出し、世間を覆う価値観からも、自由に なったと思われます。 このラストは、優れた小説にはしばしば見受けられる、読者にカタルシスを感じさせる見事な描写である と、感じられました。

0 件のコメント:

コメントを投稿