2019年3月22日金曜日

島田裕巳著「戦後日本の宗教史」を読んで

戦後日本の宗教観、精神世界の変容を、「天皇制」「先祖崇拝」「新宗教」というキー
ワードを軸として解き明かす書です。

私のような戦後生まれの日本人には、一般的なイメージとして、我々の抱く宗教意識
は、年月の経過と共に益々希薄になって来ているように感じられます。しかし戦前
には現在とは全く違う精神世界が確かに存在し、現実にニュースで目にする他国の
宗教的熱狂や、我が国でも時として世間の耳目を集める特異な宗教的事件は、宗教
というものが私たちの潜在意識の中で、今なお確実に生き続けていることを感じさせ
ます。

折しも、オーム真理教事件の教団関係の死刑囚全員処刑というショッキングな出来事
と重ねて、本書を読むことにしました。

まず「天皇制」の変化については、天皇という存在の憲法上の位置付けの転換、国家
神道体制の解体が私たちが従来認識して来た戦後の新しい価値観でしたが、本書に
よると宗教的観点からは、天皇の宮中祭祀が戦後も継続され、靖国神社が戦前の
価値を保持したままで存続することが許されたことが、戦後の国民に対する天皇の
イメージを曖昧なものにしたといいます。

それはひいては、戦争中我が国によって被害を受けた周辺のアジア諸国との関係を
長くギクシャクとしたものにし、我々国民の心の中にもわだかまりを残すこことになった
のです。

「先祖崇拝」は、戦後の高度経済成長による大都会への人口集中、核家族化によって、
先祖崇拝が急速に失われて行く過程を示します。葬儀の簡略化、檀家制度の衰退は
これと一つながりで、私たちもこの現象を肌で感じて、宗教意識の希薄化を実感する
のでしょう。

ここで興味深いのは皇室の後継問題で、日本の核家族化という趨勢は、何も庶民に
限られたことではないのです。

「新宗教」は、世の中の価値観が急激に変化する時に生まれやすいそうです。戦後の
急速な経済発展の中で、物質文明化と独立世帯の増加に呼応するように勢力を伸ば
したのが創価学会で、バブル崩壊の予兆の中で、力を付けたのは神秘主義と終末論
を掲げたオーム真理教であったといいます。

オーム事件の悲惨な結末は、我々に大きな衝撃を与えましたが、私たち人間が何らか
の形で精神的な拠り所を持たなければ生きていけない存在である以上、宗教について
も確固とした価値基準を持つことが必要であると、本書を読んで感じました。

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