2017年10月25日水曜日

森本あんり著「反知性主義 アメリカが生んだ「熱病」の正体」を読んで

「反知性主義」というと私たちは、最近の軽佻浮薄な世相や、ヘイトスピーチに代表
される偏狭なナショナリズムを、すぐに思い浮かべます。しかし、アメリカで言われる
「反知性主義」がこれとは少し趣きを異にし、しかもこの国の社会、政治の特性を
語る上で不可欠のものであることは、薄々感じていました。それゆえ、それが如何
なるものかを知りたいと思い、本書を手に取りました。

まず本書を読んで強く印象に残ったのは、アメリカという国の社会基盤には、今なお
キリスト教的価値観が深く根付いていることです。もっとも、ピューリタンによって
建国されたこの国の歴史を考えれば、それは至極当然のことですが、アメリカの
経済、文化に強い影響を受けているとはいえ、宗教的伝統が違う私たち日本人には、
その点がなかなか見え難く感じます。

しかし、世界第一位の経済力、軍事力を誇り、民主主義と自由主義、経済的、科学的
合理主義を信奉するこの国にあって、根強い反共産主義や反イスラム主義が見られ、
今なお進化論を否定する議論が存在するという事実は、キリスト教の影響を考慮
すれば納得がゆきます。

同様の理由からアメリカの政治もまた、キリスト教に強く影響されて発展して来たと
言います。まずアメリカの知性を象徴するハーバード大学は、ピューリタンの神学校と
して設立されました。それゆえこの国の「知性主義」は、この系譜を引くのです。

しかし建国の過程で、実権を握るピューリタンの主流派教会に対して、平等主義を
唱える信仰復興運動によって力を得た、反主流の福音主義派のキリスト教徒と、
建国の父祖となる信教の自由を求める世俗政治家が手を結び、政教分離国家が
出来上がったと言います。

つまりこの信仰復興運動に「反知性主義」の原点があるのです。以降、信仰復興運動
は「熱病」にも似て、幾度にも渡って勃興し、この国の厳格なエリート主義としての
「知性主義」に対抗して、社会的弱者の平等を求めて行きます。

このように見て行くと、アメリカの政治が獲得した民主主義や自由主義が、キリスト
教的な考え方によって勝ち取られたものであることが、分かります。

この宗教の伝統を持たない私たちの国が、アメリカ型の経済制度の移入には成功
しても、与えられた民主主義や自由主義がなかなか根付きにくいことが、納得出来
ます。

また、この度のアメリカ大統領選挙での、大方の予想を覆したポピュリストと目される
トランプ大統領の誕生は、この国の疲弊の露呈と同時に、歪んだ「反知性主義」の
現れかも知れないと、感じました。

0 件のコメント:

コメントを投稿