2015年2月3日火曜日

ジャン=ピエール・ジュネ監督 映画「天才スピヴェット」を観て

「アメリ」のジュネ監督による、ラルフ・ラーセンの小説「T.S.スピヴェット君
傑作集」の実写映画化作品です。一見有り得ない天才科学少年と奇妙な
家族の織りなす荒唐無稽なお話ですが、実は普遍的な家族の喪失から
再生への軌跡を描く物語です。

T.S.スピヴェットは天才的な頭脳を持つ少年ですが、モンタナの片田舎に
時代遅れのカウボーイの父、昆虫学者の母、女優志望の姉、そして父の
血をもっとも引き継ぎ、家族に愛されている彼の双子の弟と暮らして
います。

彼の常軌を逸する才能は、周囲の人びとは無論、家族にさえなかなか
理解されませんが、各々の個性を尊重する家庭で、それなりに充実した
日々を送っていました。

しかし銃の暴発事故で目の前で最愛の弟を失った彼は、以降家族の
心がばらばらになって行くのを感じ、自らも弟の死を防げなかった
罪の意識に苛まれて、折しも自身の投稿論文が、権威あるスミソニアン
学術協会が最も優れた発明家に授与するベアード賞に選ばれたという
知らせを受けて、親に内緒で大きなカバンを抱え、協会のあるワシントン
まで大陸横断の無銭旅行に出ます・・・

都会にうごめく大人のエゴイズムをチクリと風刺しながら、少年の大胆な
行動によって、家族それぞれが掛け替えのない一員を失ったことにより、
無意識のうちに心を閉ざしていたことに気づかされる。

各々の個性が突出した奇想天外な家族の普通とは違う喪失感と、誰もが
納得できる絆の再生のドラマを共存させることによって、ジュネ監督は
現代社会における家族のありかたの一つの理想を、追求しているように
思われます。

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