2026年10月24日土曜日

粟津則雄著「ヨーロッパ美術紀行」を読んで

美術評論家粟津則雄が、友人の作家古井由吉、詩人吉増剛造、装幀家菊池信義と同行して、フランス、 イタリア、オーストリア、ドイツの美術館、教会を巡った様子を記する、贅沢な美術紀行です。この 旅行の時期は約40年くらい前ですが、十分に今日の旅行ガイドに資すると思われます。 鑑賞の対象は、主に教会建築とそれに付随する彫刻、絵画、更に美術館に展示されている絵画作品で すが、まず教会建築と彫刻について感想を記しますと、正直私はこの分野に明るくないので、本書の 記述を読んで、新しく知るところが多くありました。 ロマネスク様式、ゴシック様式の違いは、実感としては分かりませんが、著者の筆致から推測すると、 ロマネスクには素朴で堅牢、初々しい宗教的熱情が込められているように感じられ、ゴシックでは 建築技術の向上もあって、ステンドグラスの使用など、華美で装飾的ですが、あざとさも感じられる 場合があるように思われます。 しかし、キリスト教美術の中心地として歴史を重ねたこれかの国々では、両者はほどよく融合して、 今日の荘厳で華麗な教会建築を形作っていると感じられました。私ももし、これからヨーロッパを 訪れる機会があれば、このような視点で教会を眺めてみたいと思いました。 美術館で鑑賞される絵画作品については、私も実際にパリのルーブル美術館やフィレンツェのウフィ ツィ美術館、ウィーンの美術史美術館は訪問したことがあり、この本の記述に感慨深いものがありま した。 本書の中では私は特に、美術史美術館の描写に惹き付けられました。この美術館は、イタリアルネサ ンスの秀作も所蔵していますが、やはり白眉は、北方ルネサンスの絵画で、デューラーの作品には イタリアのものと比較して、物質性と霊性の対峙するような厳しい精神性がうかがわれ、ブリューゲ ルの諸作品とりわけ、大作『バベルの塔』では、大画面に巨大な塔が気の遠くなるような細密描写で 描き込まれ、対照的に蟻のような大きさで蠢く登場人物たちが、人間の欲望と傲慢さや存在の儚さ、 それでいて人類の未来への希望を表現しています。私自身がこれらの絵画と対面した時の感動が蘇っ て来て、心地よい時を過ごせました。 この旅で著者が訪れた国による表情の違い、同行の友人たちの気質も巧みに描写されて、紀行文に 魅力を添えています。

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