2022年3月15日火曜日

呉座勇一著「頼朝と義時 武家政権の誕生」を読んで

鎌倉時代における武家政権の誕生は、我が国の歴史上の一大転換点です。それ故、時代劇や歴史小説 でもよく取り上げられますが、私がこの時期の出来事を実相としてどれだけ把握しているかは、大い に心もとなく感じます。そこで折しも、今年のNHKの大河ドラマで「鎌倉殿の13人」が放映されている こともあり、綿密な資料の読み込みによる歴史解釈で定評のある、歴史学者の著者のこの本を読んで みることにしました。 本書によると、朝廷から武家へ権力が移行し、幕府という武家政権が確立するためには、源頼朝と 北条義時という二人の傑出した政治家が必要であった、ということです。頼朝は、周知のように源氏 嫡流の出自でありながら、父義朝の失脚によって流人の立場になり、それにもかかわらず源氏の再興 を期して立ち上がり、隆盛を極めた平家を亡ぼし、鎌倉幕府を打ち立て初代将軍になります。その 過程においては、まず東国で地盤を固めるために、協力者を集めながら敵対者と戦を繰り返し、また 源氏の棟梁という立場を確立し、兄弟の優れた武将の力を借りて、遂には平家を亡ぼすに至ります。 彼のカリスマ性、権謀術数に長けたところ、冷静沈着さや慎重さ、そして恐らく人を動かす人間的 魅力と運が、この偉業を成し遂げさせたと感じます。 しかし彼はその反面、若い頃に流人の辛酸をなめたために、なかなか人を信じることが出来ず、その 結果、一時は彼の手足となって働いた兄弟たちを粛清し、晩年は孤独を強いられ、血筋の後継者も 少ないことから、直系の将軍は早くに跡絶えることになります。 それに対して義時は、頼朝の妻政子の兄弟として生まれ、彼に引き立てられて有力な腹心の部下と なり、頼朝亡き後には、次第に影響力を増して、遂には後継将軍の決定にも力を及ぼすようになり、 承久の乱を経て武家政権を確立、更には、北条氏が永く執権として幕府内で権勢を振るう基盤を作り ます。 彼も、師頼朝に習い、冷静沈着で権謀術数に長け、その上自身が表舞台には立たず、陰で操るシス テムを作り上げたことが、一族での幕府内の影響力を永く維持する原動力となったと、推察されます。 本書を読んで行くと、正に謀略と武力抗争が時の権力を決定する、荒々しい社会の趨勢に驚かされ ますが、その陰に隠れて日常の庶民の生活があり、地道な経済活動も行われていたことも、忘れては ならないでしょう。頼朝も義時も、本来は自分たちの理想の社会の建設を目指して、行動していたと 信じたいと思います。

0 件のコメント:

コメントを投稿