2021年11月9日火曜日

D・モンゴメリー、A・ピクレー著「土と内臓 微生物がつくる世界」を読んで

本書はある意味、私のこの世界に対する認識を変えてくれる書でした。 まず「土と内臓」という、その一見突拍子もないものの組み合わせを表すこの本の題名が、その ことを端的に示していると思われます。しかし、私のような読者のみならず、夫は地形学、妻は 生物学というそれぞれの専門分野の研究者である筆者夫婦が、自らの体験に基づく驚きと気付き を本書執筆の動機としているところに、この本の読む者の知的好奇心をくすぐらざるを置かない、 魅力が集約されていると感じられます。 さて、著者たちが本書を著述するきっかけは、夫婦が新しく購入した家に、妻のアン・ピクレー が庭園を造ろうとしたことから生まれます。その自宅の敷地の土質は、到底植物の栽培に適さ ないほど、固く痩せていたのです。そこから、土質の改良の最新の知見を駆使して、アンの奮闘 が始まります。 そして短期間のうちに庭園の土が肥沃なものになり、植物が生い茂り始めた時、元々地形学が 専門で、土質にも興味を持つ夫のデイビット・モンゴメリーが、その要因について考えることに なったのです。 つまり、アンが土質改良のために施した堆肥、牛糞などの有機物、鉱物は、直接植物の根に吸収 される訳ではありません。ではどうして、それらの土を肥えさせ、植物の栄養となるのでしょう か?そして、土中に生きる細菌類がそれらを分解し、植物の根に養分を与えると共に、病害から 植物を守っていることに気づきます。 次には、アンが癌を患い、手術を受けたことをきっかけに、再発を防ぐための食生活の改善を 契機として、腸内細菌について思考を巡らせます。それによると、人間の大腸内には多くの 細菌類が生息し、私たちが食べた食物の分解を手助けすると共に、免疫細胞と協力して病原菌の 侵入を防ぎ、腸内の環境を整えています。そして、植物、人間の良好な生育条件を維持するため に、土や内臓において、目に見えない細菌類が極めて重要な役割を果たしているという共通性、 類似性に思い至るのです。 私たち人間は、地球という自然環境の中で、生物種として何も突出した存在ではありません。 我々が肉眼で確かめることは出来ませんが、夥しい微生物に満たされた流動的な空間の中で 揺蕩っている、儚い存在に過ぎないのではないでしょうか?そんなことを感じさせてくれる 好著です。

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