2021年11月22日月曜日

池上彰、佐藤優著「真説日本左翼史 戦後左翼の源流1945-1960」を読んで

私が本書を手に取ったのは、我が国において第二次世界大戦後一定以上の広範な支持を受けて いた左翼思想が、どうして衰退して行ったかを知りたかったからです。 それは私自身、これまで特段左翼思想に傾倒して来た訳ではなかったのですが、時にはある種 のシンパシーを感じ、それがある時期から全くの空想論という思いを強め、その心の動きと轍 を同じくするように、この国の政治運動の熱気が薄れ、社会がより良い方向に進むという期待 が急速に失われて行ったように感じるからです。 無論、私たちの社会に対する満足感が損なわれて行ったのは、高度経済成長後のバブル崩壊、 それ以降の経済的低迷という、我々が長く享受して来た豊かさの喪失によるところが大きい でしょう。 しかし決してそれだけではなく、いやそれ以上に、コロナ禍で更に露になった経済の国際的 競争力の衰退や少子高齢化、貧富の格差の拡大が顕著に示されているこの時期にこそ、政治の 果たすべき役割は重要で、そのためには、国民一人一人の左翼思想華やかなりし頃と同じよう な政治への問題意識、熱気がもう一度蘇ることが必要であると、感じるからです。そしてその ためには、かつての左翼思想興亡の歴史を知ることが不可欠であると、感じられたのです。 さて本書によると、戦時下の思想統制によって弾圧された左翼の指導者、活動家が、敗戦後 国民に救世主のように受け止められ、折しもソ連という新興の実験的社会主義国への希望が、 左翼思想への支持を後押ししたことが見て取れます。このような国民の期待を、上手く政党 支持に結びつけたのが社会党であり、長く国政における第二党の立場を守り続けました。 しかしソ連におけるスターリン批判や、後の国家体制の崩壊によって、社会主義の幻想が暴か れ、社会党は東西冷戦の終結、労働組合の支持への過度の依存によって、一般国民の支持を 急速に失い、衰退して行ったと思われます。 残った共産党は、唯一の革新政党として近年は一定の支持を獲得していますが、急進的な政党 である本質は変わらないと、著者たちは主張します。 本書を読んで、戦後日本社会に対して、左翼思想が果たした役割についての記述が少なかった ことに、物足りなさを感じました。 ただ、戦後の一定期間大衆の広範な支持を得た社会党は、この国をどのような方向へ導くべき かについて、はっきりとしたビジョンを持っていたと感じます。左翼思想がもう一度復権する ために必要なのは、正にそれであろうと思いました。

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