2021年5月7日金曜日

方方著「武漢日記 封鎖下60日の魂の記録」を読んで

世界を覆いつくしたコロナ禍の震源地であり、また政治体制が違うために、渦中の実情が 私たちになかなか伝わりにくかった、中国武漢で一体何が起こり、そこに暮らす人々は、 どのような苦難を耐え忍んだのかということを、程度の差こそあれ、同じくコロナ禍に 過ごす者として是非知りたくて、本書を手に取りました。 まず本書を理解する背景として、私たちに断片的に伝わった、西側の報道機関による武漢 におけるコロナ蔓延の報道は、当地では発生からしばらく、このウイルスの危険性への 注意喚起が行われず、その結果市民の間に瞬く間に感染が広がり、次いで医療従事者にも 感染が広がって医療崩壊が起こり、死者が日に日に増して行った。他方政府(当局)は、 最初はコロナ禍への警鐘を鳴らした医師をデマを流すと非難したが、コロナ蔓延後は都市 封鎖に踏み切り、専用病院も短期間で建設していち早く封じ込めに成功、その後この ウイルスはグローバル化の影響もあって、世界中で猛威を振るい、今日に至っていると いうものです。 さてその中で、この日記です。著者は中国で実績のある女性作家で、かつてこの地方の 作家連盟の代表を務めていました。この国のような共産主義体制の中で、はたして一個人 が自由に政権にとって不都合な部分もある情報、意見を、ブログという形で、日記として 発信することが出来るのか、最初は疑問に感じていましたが、彼女は発信停止処分や、 体制擁護の人物や団体による誹謗中傷を受けながらも、ひるまず発信を続けました。 そこには作家仲間や出身大学の関係者など、彼女を支え励ます、強い絆で結ばれた周りの 知識人の助けもありましたが、結局は、自分の筋を曲げない、事実のみを伝えようとする、 彼女の正義感と作家魂のなせる業であったと、感じました。 日記の内容に関しては、コロナ禍によって刻々と死者が増大して行く様子を、緊張感を 持って描くのみならず、感染の拡大を招いた当局の隠蔽体質を一貫して批判している一方、 医療従事者の献身的な活動や、他省からの人道的支援、住民間の食料、生活必需品の共同 購入の体制が整っていることなど、庶民間の好意や温かみのある姿を、好ましいものと して描いています。 本書を読んで、コロナウイルス感染症に我々が如何に対処すべきであるかということを、 再認識出来たと共に、中国という近くて遠い国の住民の目線から見た実際の姿を、垣間 見ることが出来たと、感じました。

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