2015年11月6日付け朝日新聞朝刊、夏目漱石「門」105年ぶり連載
(第三十一回)に、宗助の留守宅に、手放すつもりの抱一の屏風を見に来た
道具屋の主人と御米のやり取りを記する、次の文章があります。
「座敷へ上げて、例の屏風を見せると、なるほどといって裏だの縁だのを
撫でていたが、
「御払になるなら」と少し考えて、「六円に頂いて置きましょう」と否々そうに
価を付けた。
「じゃ、奥さん折角だから、もう一円奮発しましょう。それで御払い下さい」
といった。御米はその時思い切って、
「でも、道具屋さん、ありゃ抱一ですよ」と答えて、腹の中ではひやりとした。
道具屋は、平気で、
「抱一は近来流行ませんからな」と受け流したが、じろじろ御米の姿を
眺めた上、
「じゃなお能く御相談なすって」といい捨てて帰って行った。」
売り手、買い手のお馴染みの虚々実々の駆け引きですが、それにしても
今や重要文化財に指定された屏風作品もある抱一が、随分安く見積もら
れたものです。
そういえば明治時代には、日本の美術品が多く海外に流出したということで、
これも価値観の大きく転換した時代の、なせる業なのでしょう。
ちょうど琳派400年ということで、抱一がまた脚光を浴びているので、ついつい
御米と道具屋のこの会話に目が止まりました。
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