2015年11月19日木曜日

漱石「門」の中の、風呂敷の包み方の描写について

2015年11月18日付け朝日新聞朝刊、夏目漱石「門」105年ぶり連載
(第三十七回)に、大家の坂井の家に入った泥棒が、逃げる途中で
宗助たちの借家の裏庭に残していった、坂井家から盗んだ手紙入れの
文庫を、宗助が坂井に返しに行くに際して、持ちやすいように御米が
風呂敷で包む様子を記する、次の文章があります。

「御米は唐桟の風呂敷を出してそれを包んだ。風呂敷が少し小さいので、
四隅を対う同志繋いで、真中にこま結びを二つ拵えた。宗助がそれを
提げたところは、まるで進物の菓子折のようであった。」

風呂敷に使用する白生地を商う三浦清商店の店主の私としては、得意な
分野の題材です。

少し見づらいかもしれませんが、上の写真が正式な包み方、下が文章に
出てきたこま結びです。

説明しにくいのですが、正式な包み方には、心のこもった、行き届いた
雰囲気があり、こま結びの包み方には、少し無頓着か、おざなりな感じ
がします。最も今日では、風呂敷に包むだけでも十分に丁寧ですが・・・

つまり前者では、包む品物を大きさに余裕のある風呂敷で包み、後者では
ぎりぎりの大きさの風呂敷で包むか、ぶら下げて持ちやすいように包む
ということになります。

「門」の描写においては、宗助と御米の生活の慎ましさ、健気さを巧みに
表現しているようにも感じられます。

漱石の生きた時代には、このような風呂敷の包み方によるニュアンスの
違いが、まだ広く一般の人々に共有されていたのでしょう。

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