2015年11月13日金曜日

京都文化博物館「レオナルド・ダ・ヴィンチと「アンギアーリの戦い」展」を観て

本展は、ルネサンスを代表する巨匠ダ・ヴィンチがフィレンツェ共和国の依頼で、
フィレンツェの政庁舎(ヴェッキオ宮殿)の大会議室に描いたという幻の壁画
「アンギアーリの戦い」を、近年所在が明らかになったダ・ヴィンチ本人による
この壁画の下絵とも噂される、謎に満ちた名画「タヴォラ・ドーリア」によって
解き明かそうとする、ミステリー性も帯びたスリリングな展覧会です。

歴史上のアンギアーリの戦いは、1440年トスカーナ州アンギアーリで
フィレンツェ軍とミラノ軍によって繰り広げられた戦いで、フィレンツェ軍の勝利に
よって終わったそうです。

この壁画は、史実の顕彰を意図して企画されたに違いありませんが、
制作技法上の失敗や、フィレンツェ共和国を巡る政情の変化もあって、50~60年
後には失われることになったと言います。

しかしこの幻の壁画は、近年の「タヴォラ・ドーリア」の綿密な研究や、現在は
違う壁画に覆われている、かつて「アンギアーリの戦い」が存在した壁面の
科学的検証によって、次第にその相貌が明らかになりつつあります。

さて、そのような背景の中での本展です。まずこの展覧会のメインの作品
「タヴォラ・ドーリア」は、未完の部分も多く残す、制作途上を思わせる作品
ですが、軍馬、戦士一体となった躍動感と迫真性に富む描写は、画家の
並々ならぬ技量を雄弁に物語っています。その証拠に、同時に展示される
他の画家のこの作品の、もしくは壁画そのものの模写と比較した時、本作の
完成度の高さは一目瞭然であるように感じられます。

ダ・ヴィンチの「アンギアーリの戦い」は作品自体は失われても、その革新的な
表現法によって、本展でも分かりやすく具体的に例示されているように、後世の
戦闘画描写法に大きな影響を与えたと言います。正に天才ダ・ヴィンチの
面目躍如たるところがあると感じました。

さらに本展では、この壁画と同時にヴェッキオ宮殿の大会議室を飾る予定で
あった、ミケランジェロ「カッシナの戦い」の下絵模写も展示されています。

その場でしか観られる可能性がなかった二人の巨匠の競作は、もし完成して
おればいかばかりのものであったでしょう?ルネッサンスの豊饒に思いを馳せ、
しばし現実の時を忘れることの出来る、贅沢な時間を提供してくれる展覧会
でした。

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