2024年3月16日土曜日
島崎今日子著「ジュリーがいた 沢田研二、56年の光芒」を読んで
沢田研二(ジュリー)は、地元京都出身ということもあり、私にとって身近に感じられるスターでした。
もっとも、コンサートに行くほどのファンではなく、実際に会ったことはないけれど、少し年長の知り
合いからは、彼のデビュー前の噂も聞き、テレビで映し出される彼の妖艶な歌唱の姿を見ても、遙か
遠くの存在とは思われないところがありました。
また、彼の主演したドラマ「悪魔のようなあいつ」では、彼の演じた三億円事件の犯人に、破滅型の
ヒーローとして、シンパシーを感じていたものでした。しかしいつか、彼がテレビから遠ざかり、同時
に私も年を重ねて、私の中のジュリーが次第に遠景に退いて行った時に、目にしたのが本書でした。
従って私自身、自分の若かりし日をなぞる思いで、この本を読みました。
実際に読み進めてみると、常に時代の表街道を歩いているように思われた全盛期の彼が、様々な曲折に
直面し、試行錯誤を重ねながら、トップスターの座を維持していたことが分かります。ザ・タイガース
の一員として、ファンから熱狂的な支持を得た時代、本人たちの音楽指向とは違うアイドル路線を求め
られ、次第にメンバー間に齟齬が生まれてグループ解散に至る様子。
またグループサウンズ退潮の中で、所属プロダクションが起死回生を目指して結成を働きかけた、タイ
ガースのメインボーカル沢田研二と、ザ・テンプターズのメインボーカル萩原健一(ショーケン)を
ダブルボーカルに据えたPYGが、ジュリーはソロ歌手として、シューケンは俳優として、それぞれの道を
歩み出したために消滅する経緯には、各自が自分の生き方を求めて、懸命に模索する様子が見えます。
しかしその中でも、自らの歌う曲をヒットさせることを最上の価値とする、沢田の信念はぶれることな
く、彼はスターの座に居続けるために、新しい音楽の傾向を積極的に取り入れ、ビジュアルや演出に工夫
を重ねて、常に新しいジュリーであり続けたのです。容姿や歌唱力に恵まれながらも、彼がそれにも増し
て努力に人であることを、改めて気づかされました。
本書は、そのような彼の音楽活動の軌跡を追うことによって、図らずも現代歌謡曲史にもなっていると
感じられました。またこの本を読むことによって、このジュリーが如何にこれから彼の老後に向かい合う
かということにも、興味を持ちました。そこを描く続編にも、期待したいと思います。
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