2022年1月25日火曜日

福岡伸一著「生命海流 GALAPAGOS」を読んで

ダーウィンが『進化論』の端緒をつかんだガラパゴスは、自然科学好きには一度は行って みたい場所です。しかもその魅力溢れる場所を、かの『動的平衡』の福岡伸一先生が訪れ て、探検記を著すとなると、これは是非読まずにはいられなくなります。 さて、先生の目を通して見るガラパゴスは、やはり魅力に満ちています。しかし単なる 旅行記とは違うところは、先生が冷静で客観的な科学者の視点を持ち合わせていることで、 そのおかげで本書も、凡百の観光書と趣を異にしています。 まずその記述の中の、ダーウィンのガラパゴス諸島訪問時のビーグル号の航路を、出来る だけ再現するために先生が乗船した、マーベル号での日常生活に目を向けると、厳格な 環境保護規制とこの島々の地理的条件により、諸島を巡る船舶のサイズは自ずと制限され ていて、それゆえに先生は、都会生活では考えられない窮屈で不便な生活を、強いられる ことになります。 これも探検の一側面、その制限された船内生活の中で、専属料理人の美味しい食事に疲れ を癒され、そして何より、ガラパゴスの圧倒的な自然の姿に感動させられ、知的好奇心を 掻き立てられます。そのコントラストをなす記述が、心地よかったです。 ガラパゴスの自然環境と、その中に生息する他の地域とは極端に異なる生物について、 我々一般人は進化の袋小路、成れの果てのイメージを持っています。いわゆる携帯電話の ガラパゴス化という言い方が、そのことを端的に表しています。 しかし福岡先生の科学的知見によると、詳述は避けますが、この島々は生物進化の最前線 の場所で、今まさに進行している進化が、手に取るように見えるといいます。この記述も、 この場所の魅力を余すところなく伝えています。 最後に私の一番印象に残っているのは、最終章サンティアゴ島の章で先生が語る、ガラパ ゴスの動物が人間を恐れないことの理由の見解で、先生は、ガラパゴスの動物はその生存 環境に外敵が少なく、余裕を持って生活出来るために、動物が本来持っている、生命と しての知的好奇心が前面に押し出されているためではないか、と語っている部分です。 この記述は、福岡先生自身の生命への信頼と共感を私たちに伝えると共に、生命活動の 本質を現わしているように、私には感じられました。

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