2020年7月28位置付け朝日新聞朝刊で、上記見出しの記事を読んで、興味を覚え
ました。
この記事によると、米国の作家アーネスト・ヘミングウェイの代表作「老人と海」の
新訳が、新潮文庫から刊行されたということで、従来の訳は福田恆存翻訳で1966
年に初めて刊行され、122刷で累計499万部が売り上げられ、同文庫全体でも、
夏目漱石「こころ」、太宰治「人間失格」につぐ発行部数を誇るそうです。私も、この
翻訳作品のお世話になりました。
今回なぜ新訳が刊行されることになったかというと、担当編集者は、半世紀前の
翻訳は今よりも格段に情報量が少ない中で行われたこと、どんな名訳であっても、
時代が進むと、必然的に内容が古く感じられてしまうから、と語っているそうです。
新訳を手掛けるのは、70編以上のヘミングウェイ作品を訳して来た高見浩で、動画
などの資料を利用し、舞台になったキューバの村や漁港の雰囲気をつかみ、漁に
まつわる表現の正確を期するために、ベテランの釣り師から助言を受けたそうです。
そして私が興味を覚えたのは、主人公の内面描写を丹念にすくい上げた、という
部分。確かにヘミングウェイには従来冒険的で、ハードボイルドな作家というイメージ
がーおそらく福田の翻訳も、そのイメージを補強することに随分寄与していると感じ
られますがーあって、その先入観のもとに私たちも彼の作品を読んで来たと思われ
ます。
それに比べて福田訳は、情緒的ではない抑え気味の表現で主人公の老人を描いて
いる、ということです。
確かに現代の時代も、マッチョな野生性ではなく、男性に対しても強さ以上の繊細な
優しさを求めているところがあり、事実ヘミングウェイ自身もそういう資質を持ち合わ
せていたようなので、この翻訳が新たな彼の作品の魅力を引き出してくれるのかも
知れないと、感じました。
同時に翻訳文学というものが、翻訳者という存在が読者と作家の間に介在すると
いう宿命のために、時代や時々の価値観などの要因によって、変遷するものである
ことを、改めて感じました。新訳も是非、読んでみたくなりました。
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