2025年6月5日付け朝日新聞朝刊、「鷲田清一折々のことば」3416では
京友禅のメーカーを経営する那須修の『京友禅への誘い』から、あるきものの持ち主の次の言葉が
取り上げられています。
「茶席で座っていたら、膝の上の柄に励
まされているような気がした」
このような場合、お茶席で着用するような着物は、手描き友禅の訪問着が多いので、ここに描写
されている着物も、きっとそうであると推察します。
手描き友禅の着物の制作工程は、エバ縫い、下絵、友禅糊置き、地染め、蒸し、水元、友禅色差し、
揮発水洗、刺繍、あるいは金彩加工と、全て別々の職人の手作業によって担われていて、それぞれ
が技術の粋を傾けて作業に当たります。
そのようにして完成した訪問着は、最近の既製品の着物に多く見られるプリント加工の着物に比べ
て、重厚感や何とも言えぬ気品があるものです。
ここで語られているような感慨をその着物の購入者が持たれたら、メーカー側は、制作者冥利に
つきるでしょう。
苦心して作り上げられた品が、着用者の心とも共鳴して、満足のいく茶事が営まれたなら、それ
ほどの着物と所有者の幸福な関係はないと思われます。
本来、ハレの着物とは、そういうものであったと思います。
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