2025年10月2日木曜日

「鷲田清一折々のことば」3416を読んで

2025年6月5日付け朝日新聞朝刊、「鷲田清一折々のことば」3416では 京友禅のメーカーを経営する那須修の『京友禅への誘い』から、あるきものの持ち主の次の言葉が 取り上げられています。    「茶席で座っていたら、膝の上の柄に励     まされているような気がした」 このような場合、お茶席で着用するような着物は、手描き友禅の訪問着が多いので、ここに描写 されている着物も、きっとそうであると推察します。 手描き友禅の着物の制作工程は、エバ縫い、下絵、友禅糊置き、地染め、蒸し、水元、友禅色差し、 揮発水洗、刺繍、あるいは金彩加工と、全て別々の職人の手作業によって担われていて、それぞれ が技術の粋を傾けて作業に当たります。 そのようにして完成した訪問着は、最近の既製品の着物に多く見られるプリント加工の着物に比べ て、重厚感や何とも言えぬ気品があるものです。 ここで語られているような感慨をその着物の購入者が持たれたら、メーカー側は、制作者冥利に つきるでしょう。 苦心して作り上げられた品が、着用者の心とも共鳴して、満足のいく茶事が営まれたなら、それ ほどの着物と所有者の幸福な関係はないと思われます。 本来、ハレの着物とは、そういうものであったと思います。

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