2024年6月4日火曜日

高畑勲著「映画を作りながら考えたこと」を読んで

ご存じ、宮崎駿と共に、数々の名作アニメを生み出した、スタジオ・ジブリの中心メンバーで、アニメ映画 監督、プロデューサー高畑勲の携わった映画についての論考、対談等をまとめた本です。文字通り映画制作 の舞台裏を語ったもので、それ自体に、例えば優れた創作作品に接した時のわくわくするような気分は感じ られませんが、本書を読むことによって、慣れ親しんだあのジブリ映画が生まれた背景、制作者の意図が より深く理解出来て、個々の映画を初めて観た時の感動が蘇って来るのを感じました。その意味で大変幸福 な読書体験でした。 本書によって気づかされたことは色々ありますが、まず最初に印象に残ったのは、高畑勲と宮崎駿が東映動画 の組合活動を通して出会ったということです。当時のアニメーターの厳しい労働環境への問題意識を二人が 共有していたということで、以降のジブリ作品の根底に、社会問題への真摯な問いかけが存在していることに、 改めて納得させられました。 また、このことにも通じますが、宮崎駿が自らの原作を映画化して「風の谷のナウシカ」を完成させた時に、 プロデューサーとして参加した高畑が、映画の完成度を30点と、かなり辛口に厳しく採点したことが挙げられ ます。 この映画は、近未来の核戦争によって荒廃した世界に生きる一人の勇敢な少女が、その世界においてもなお 武力を行使し、覇権を競う人々が招いた人類滅亡の危機から人々を救う、哲学的で深遠なテーマを有する原作 を、壮大なスケールで迫力たっぷりに、それでいて詩情豊かに描いた傑作で、この作品によって宮崎監督の名 は一躍有名になりましたが、高畑は敢えて、彼の更なる環境問題への鋭い切り込みの可能性を信じて、この ような採点をしたのでしょう。 次に感銘を受けたのは、高畑自身が監督をした「火垂るの墓」の制作意図として、戦中の食糧不足の中で、 主人公の少年が幼い妹を連れて辛く当たる遠縁の未亡人の家を飛び出す場面、この少年の行動が、忍耐を美徳 とするのではなく、誇り高く現代的で、現在の若者にも共感を得やすいのではないかと述べている部分で、彼 が制作当時の若い世代に、戦争の悲惨さを如何に訴えかけるかということに、切実に腐心していたことが窺え て、改めて感心させられました。

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