2022年12月6日火曜日
辺見庸著「自動起床装置」を読んで
1991年の第105回芥川賞受賞作です。それから30年以上の歳月が経過しているのに、決して古びて
はいず、批評精神に富み、楽しく読みました。
まず、報道機関の宿直室が舞台であることが、私にとって意表を突いていました。正に、興味は
あるけれど未知の世界なので、期待が膨らみました。
総合管理部深夜職員控室付きの、アルバイト職員である語り手水田満の業務は、宿直者の世話
一般、そして就寝中の希望者を指定の時刻に起こすことです。しかしこの「起こし」の業務が奥
深く、一筋縄ではいきません。人は、寝相も含め眠り方には色々な癖があり、寝つき、寝起きに
も善し悪し諸相があります。そこで満らの重要な任務の一つは、寝起きの悪い宿直者をいかに気
持ち良く起こすかということになります。
ここまで読んで、自分の最近の就寝時の様子を振り返ると、身につまされるところがありました。
私の個人的なことながら、一昨年大腸がんの手術を受けて、S状結腸を一部切除したこともあって、
以降徐々に回復してきているとは言え、腸の調子が安定せず、それが睡眠にも影響していびきを
かくことが多くなりました。
それが昨年、自宅の建て替えで小さい仮住まいに移ったこともあって、それに伴うストレスも重
なって、大いびきをかくようになり、間近で寝なければならない家族から苦情が起こったのです。
家人から注意されて、改めて自分の睡眠状態を意識すると、熟睡出来ていないことから、昼間も
注意力散漫になっていることに気づかされました。睡眠の重要性を思い知らされたところです。
さて、水田満の相棒に、起こし名人の小野寺聡がいます。彼は、寝起きの悪い宿直者に献身的に
寄り添い、ささやきかけるように声をかけることによって、心地よい目覚めを促します。事ここに
至って、著者は現代人のストレス過多、退行性を皮肉っているように思われます。
しかし、話は勿論そこでは終わりません。この会社の総合管理部は何と、「自動起床装置」を
試験的に導入することに」なります。この装置は、枕の下に設置された布袋が、タイマーに従って
間欠的に膨張、収縮を繰り返すことによって、就寝者を起こす仕組みで、試行の結果さしたる異論
もなく、導入が決定します。
小野寺は、起こし名人としての自負を打ち砕かれ、満共々この仕事を離れることになりますが、
ここでは機械が人に取って代わる何か味気ない未来と、人間の本能までが機械に制御される、人間
力の衰退への告発が感じられました。
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