2022年12月13日火曜日

長谷川智恵子著「「美」の巨匠たち」を読んで

当時著名な画廊である、日動画廊副社長として美術界で活躍していた著者による、洋の東西の 美術の巨匠へのインタビューをまとめた本です。 本書の出版が2010年で、しかもその元になる『素顔の巨匠たち』が1981年に刊行されているの で、本書に含まれるインタビューの大部分が、今から40年以上前に行われていることになり ます。 それ故、今現在から振り返ると、約半世紀前のインタビュー記事を読むことになり、恐らく 全てのインタビュー対象の美術家が最早鬼籍に入っていると思われますが、それぞれが美術界 において一時代を築いた芸術家であり、これだけの時を隔てて読むことに、かえって価値が あると感じられました。 さて本書を読み進めて行くと、登場する巨匠と呼ばれる各芸術家が、興味深い個性的な人物で あるのは言うに及ばず、インタビュアーである著者長谷川智恵子の魅力が、彼らのありのまま の姿を引き出すために、大きな力を発揮していると感じられました。 それほどに長谷川は、才色兼備の魅力的な女性で、また当時の美術界で影響力のある働きを して巨匠たちにも一目を置かれ、更には、美術への愛情と彼らへの敬意が相手にも伝わり、 インタビューの現場で本音を引き出すことに成功している、と思われました。 ただわずかな難点を挙げれば、彼女の対象芸術家への過剰な思い入れがイメージを限定して、 時としてインタビューを形にはめてしまっていると感じるところがありますが、いずれにして も、今は亡き巨匠たちの生の姿に触れられるという意味で、貴重な本であると思いました。 さて、それぞれの巨匠たちの具体的な印象は挙げるときりがないので、実際に本書を手に取っ てもらうということにして、全体を読んで感じたことを記しますと、まずこれはある意味当然 のことですが、インタビューに際して彼らが自分の作品を観てほしいと言うこと、またそれ ぞれの生き方として、職人気質であったり、破滅型であったり、自分のイメージを装う人物が いること、更には、本書に登場する数少ない日本画家東山魁夷の語ることは、明らかに内省的 な精神性において、他の西洋美術の巨匠たちとは異質であると感じられて、このあたりに東西 の文化の差異が現れていると思われ、大変興味深く感じました。 いずれにしても、期待した以上の充実した読書体験でした。

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