2022年5月10日火曜日

ケネス・ブラナー監督映画「ベルファスト」を観て

本年度のアカデミー賞脚本賞受賞作品で、監督自身の自伝的映画です。 全編モノクロの画面で、回想的色彩が色濃く、シーンのあちこちに郷愁を誘う詩的な情景が 挟まれ、観客を追想の世界にいざないます。モノクロの抒情性を遺憾なく発揮した映画だと 感じました。 様々な人生経験を積んで、幼い主人公が成長して行く、お定まりのストーリーですが、ここ で特筆すべきは、プロテスタントとカトリックによる、北アイルランドの宗教紛争を赤裸々 に描いていることです。 昨日までは隣人として仲良く暮らしていた人々に対し、突如信じる宗教の違いを理由にして 徒党を組み、理不尽な暴力を振るうに至る。この蛮行には憤りを禁じ得ませんが、現在 ロシアとウクライナの間で行われている戦争でも、色々ないきさつはあるにしても、ロシア が突然隣国に有無を言わせず攻め入るという行動を目の当たりにして、人間には思想信条の 違いによって、一つ間違うとこのような行為に及ぶ危険性があるということを肝に銘じる べきだと、改めて感じました。 このような人間の不合理を描きながら、この映画が観客に希望を与えてくれるのは、その 紛争の最中にも冷静に物事を考え、理不尽な暴力や差別に組しない人々がいることで、特に 主人公の少年の母親が、まだ幼く善悪の判断が出来ないために、プロテスタント側の暴徒 に紛れて、打ち壊されたカトリック側の店舗からついつい商品を持ち出してしまった息子に、 その品を返すべきことを強く諭し、危険を省みず一緒に暴徒が略奪を続ける現場に戻るシー ンで、結局この行為のために母子は身の危険に陥ることになりますが、母親のいかなる場合 も決して悪をなしてはいけないという強い意志が、この少年の将来への確かな希望を示して いると感じました。 重いテーマを描きながら、観終えた後に清々しさの残る映画でした。

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