2022年4月22日金曜日

エマニュエル・トッド著「老人支配国家日本の危機」を読んで

国、地域ごとの家族システムの違いや、人口動態に着目する方法論によって、「ソ連崩壊」や 「米国発の金融危機」「アラブの春」等を予言した、フランスの歴史人口学者、家族人類学者 による、日本に向けた論考です。 まず私が感じたのは、家族システムや人口動態を分析することが、これほどまでに各国の社会 的特徴や政治政策を規定し、強いては国際社会の将来の動向を占うことにつながる、という ことです。 この方法論による、トッドの現在の日本社会の問題点に対する指摘は極めて明確で、「直系 家族(長子相続)」という日本の家族構造が少子化を生み出し、今や顕著になって来ている 少子高齢化による人口減少が、この国を衰退に導くと警告しています。 この「直系家族」の弊害は、日本のコロナ禍対策にも顕著に現れ、新型コロナ感染症が特に 高齢者に重い症状をもたらすことから、この家族制度の特徴である老人を敬うという傾向に よって、この国のコロナ対策が老人の健康を守るために、現役世代の経済活動を犠牲にする ことになり、日本が世界の先進国と比較しても、コロナ感染症による死者が少ないにも関わら ず、経済活動の再活性化の遅れがはっきりとしていると指摘します。 そしてこの国が抱える問題の改善策として、直系家族的な価値観の見直しの推進、子供の教育 費補助など少子化対策の充実、移民の受け入れ促進を挙げています。 また本書におけるトッドの日本への提言で、もう1点強いインパクトを与えるものは、核武装 の奨励です。これは、中国の台頭による現在の東アジアの緊迫した国際情勢の中で、この国は いつまでも、日米安全保障条約によるアメリカの核の傘に依存していることは出来ず、あえて 核武装することによって、主体的な国際関係を構築するべきである、という論です。 全体を読み終えて、その学識に基づくトッドの指摘、提言を極めて明晰で、我が国の抱える 問題の核心を突くところがある、と感じました。しかし、傾聴に値するのは言うまでもありま せんが、論から導く結果は、現実の日本人の心情からは極端すぎるとも、感じられました。 つまり、日本人の老人を敬う価値観は美点でもあり、社会的弱者に配慮したコロナ対策は、 この国の高い道徳心を現わしていると感じられます。また、実際に核被爆を体験した日本人に は、それが現在の国際関係からは合理的であっても、核武装は決して容認できず、それこそが 我々の優れた平和倫理観であると、感じます。 このような点を踏まえて、トッドの鋭く指摘する諸問題の改善点を見出すことが、急務でしょ う。

0 件のコメント:

コメントを投稿