2021年3月26日金曜日

ユヴァル・ノア・ハラリ著「サピエンス全史㊦」を読んで

上巻の記述の捕捉になりますが、「農業革命」期に神話が生まれ、文字が発明されて、 サピエンスが諸々の事柄を記録する手段を得たことも、特筆すべきことです。これらの事象 は、彼らの統合の規模拡大に、道を開きました。 さて、このような働きを更に加速させたのが、貨幣、帝国、宗教(イデオロギー)の出現で した。貨幣は、それまで限られた地域内の物々交換が主体であった、経済活動を飛躍的に 拡大させ、帝国の出現は、文化の地球規模での拡大を促し、宗教(イデオロギー)のある ものは、教化という目的のために、布教地域の拡大を指向し、帝国主義的侵略の原動力と なりました。 そしていよいよ、今日の我々の暮らしとも関係が深く、サピエンスの地球上での絶対的な 地位を確定付けた、「科学革命」の登場です。「科学革命」によって彼らは、自然現象及び その法則を客観的に捉え、それを応用して、工業、医学、通信交通手段を爆発的に拡大、 発展させました。 この部分の記述で興味深いのは、「科学革命」の切っ掛けとなったのが、サピエンスが自然 現象に対して自らの無知を認識し、貪欲に真理を探究するようになったため、という解説 です。つまりそれまでは、人々はこれらの事柄について宗教上の教えや先人の説に習って、 自明のことと考え疑問を持たず、従って進歩ということを信じていなかったので、新しい 知識の獲得は、おろそかになっていたのです。この事実は、私たちにとっても、先入観に よる思考の妨げの弊害を、教えてくれます。 また「科学革命」の進展には、帝国主義と資本主義が、大きな力を発揮しました。帝国は 自らの国力の増強のため、この革命を強力に援助し、資本主義の産業革命も、自らの利潤の 増大のために、これに続きました。このように見て行くと、今日の人類の繁栄は、必然の ようにも感じられます。 しかし本書が、これまでの歴史書と異なるのは、以降の記述にもよります。つまり、サピ エンスのこのような発展は、地球上の他の生物にとっても利益であるかと考える、全地球的 視野です。この点では、人類の繁栄と引き換えに、絶滅した種は数知れず、地球温暖化の 問題と合わせて、我々が罪深い存在であることは、一目瞭然です。 あるいは、サピエンスこのような飛躍的進歩を遂げて、現在は果たして昔より幸福であるか と問う、相対的視点です。この点においても、確実な答えはありません。 人類史を従来の人間中心の視点では捉えず、地球規模でその功罪を問う、我々のこれから 進むべき方向にも示唆を与えてくれる、画期的な書です。

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