2016年10月22日付け朝日新聞朝刊、鷲田清一「折々のことば」555には
「長い道」に収録された対談から、料理家辰巳芳子の次のことばが取り上げ
られています。
母は「お金がない」って言わなかったんです。いろんな内職をしたんだけれど、
苦しいから内職をするというふうには言わなかった。
人と人のコミュニケーションにおいて、意志を明確にしてはっきりと伝えなければ
ならないこともあるけれど、あまりに身も蓋もないという風に、あからさまには
伝えない方がいいこともある。
辰巳氏の御母堂は、このようなシチュエーションにおいて、「お金がない」と
自分の子供に言わない方がいいと、判断されていたのでしょう。
成長して母の思いを知った時、その子は母の芯の強さ、子どもに対する深い
愛情を改めて知ったことでしょう。
他方、最近とみに盛んになった電子メール、SNSといった通信、交流手段は、
感情を排したはっきりとした意思表示、意見の伝達には適するけれど、微妙な
ニュアンスや、言葉の裏に隠された思いを伝えるには適さないと思われます。
また今日の社会環境、そしてこのような通信、交流方法が日常化していることも
影響していると感じられますが、人と人のコミュニケーションにおいて、言わず
もがなに伝えるという文化が失われて来ているように感じます。
もしこのようなコミュニケーションをもう一度復活することが出来たなら、人と人の
関係がもっと豊かになると思うのですが・・・
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