2015年8月13日木曜日

漱石「それから」の中の、代助の三千代への告白

2015年8月10日付け朝日新聞朝刊、夏目漱石「それから」106年ぶり連載
(第九十一回)に、遂に代助が三千代に思いを告白する、次の記述が
あります。

「「僕の存在には貴方が必要だ。どうしても必要だ。僕はそれだけの事を
貴方に話したいためにわざわざ貴方を呼んだのです」
 
 「僕はそれを貴方に承知してもらいたいのです。承知して下さい」」

代助らしい随分と理屈っぽい告白です。通常ならば、自分の思いのたけを
ストレートに相手にぶつけるのでしょうが、彼は自分の感情を至極客観的に
相手に伝えて、彼女の方からの判断を求めている。もしその女性が、世間
一般の価値観の持ち主ならば、この告白に対した時、戸惑いを覚えたに
違いありません。

しかし流石に三千代は、代助という存在をよく理解した上で、彼に好意を
抱く女性です。代助の持って回った告白は、彼女の心を揺さぶったようです。

ところで、代助の告白を受けて、平岡に嫁ぐ前にどうして打ち明けてくれな
かったのかとなじる三千代に、代助がその代わり自分は貴方に復讐を
受けていると答える台詞は、彼の屈折した心情を表していて、随分興味
深く読みました。

というのは、自分が犯した罪のために自身が苦しめられる事を、返って
慰みにしているような、心の働きを感じたからです。それでは自己満足
に過ぎないと私は思うのですが、そういえば「こころ」にも、そういう心情が
描かれています。漱石の嗜好でしょうか?


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