2024年8月20日火曜日

近藤一博著「疲労とはなにか」を読んで

私自身65歳を過ぎて、日々疲労を感じやすくなると共に、疲労というものが感覚的なものであるという思いを 強くして来ました。というのは、健康診断を受けても、体調のバロメーターとなる体重、血圧、血液の諸数値 などは数字で示されるにも関わらず、疲労度というものは、自分自身の感覚でしか認識出来ないものと、実感 して来たからです。それ故本書の、疲労とはなにかを生理科学的に探求するという命題に大変興味を持ち、頁 を開くことになりました。 のっけから驚かされたのは、日本と欧米の疲労の受け止め方の違いです。つまり欧米人には、疲労を感じる まで労働することは自己管理の欠如という感覚があり、疲労の科学的研究も重視されてこなかったといいます。 疲労をある意味美徳とも受け止める日本人によって、疲労の研究が積み重ねられて来たことは、怪我の功名と 言えるかも知れません。 さて疲労は、生理的疲労と病的疲労に大別出来、生理的疲労は日常私たちが感じる疲労です。この疲労のメカ ニズムは、体の末梢組織で起こった様々なストレスに反応して炎症性サイトカインが生成され、これば脳に 入ることによって、ストレスに対抗してタンパク質の合成を起こらなくすることで、この時当人は疲労感を 持つというものです。 すなわち、自身の体に与えられた筋肉の過剰な疲れやウイルスの感染、怪我などのストレスに対抗して、状況 をより悪くしないために、新たなタンパク質の生成をストップするという反応だということになります。これ はつまり、疲労感を感じた時には状態が改善するまで、体を休めた方がいいということです。 ここでも驚かされたのは、この疲労の程度を測定するために著者たちのグループは、人間の体内に潜伏する ある種のヘルペスウイルスが、疲労に伴って再活性化する性質を利用する方法を発見したことで、これによっ て疲労の研究は、画期的に前進したということです。 また病的疲労は、慢性疲労症候群やうつ病、新型コロナ後遺症など、正に今日的な疾患ですが、著者たちは、 続いて先ほどのヘルペスウイルスの持つ遺伝子が、慢性疲労症候群とうつ病の原因物質であることを突き止め、 新型コロナ後遺症においても、同様の性質を持つ遺伝子を、新型コロナウイルスが有していることを発見した のです。 これらの原因遺伝子は脳内炎症を誘発して、慢性的な疲労感をもたらすといいます。体内に潜伏するウイルス が、人の気分をも支配するという事実には驚きを禁じ得ませんが、人間は自らの肉体のみならず、体内の細菌 やウイルスと共生することによって、初めて生命を維持することが出来るという現実に、改めて気づかされた 気がしました。

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